(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2022年7月14日に公開したレポートを転載したものです。

なぜFRBは本質的に「ハト派」なのか

米国株式に対して楽観的になれる、より根本の理由は、米国で健全なインフレが起きており、FRBはそれを殺す過剰引締めは行わないと考えられるからである。

 

米国経済の基本矛盾に対峙する米経済の司令塔

米国経済は基本矛盾に直面している。r1>g>r2(利潤率>成長率>利子率)である。企業の超過利潤が金融市場に滞留し歴史的低金利を惹き起こしてきた。

 

これまでのところ、この高利潤と低金利の組み合わせが株高を誘導してきたが、両社の乖離が際限なく広がれば、経済は大恐慌に陥ってしまう。その根本的で望ましい解決策は、賃金の上昇による消費の拡大である。

 

[図表6]米国経済の基本矛盾と解決策
[図表6]米国経済の基本矛盾と解決策

 

なぜ賃金上昇が「よいこと」なのか

いま起きている賃金上昇がよい賃金上昇であることは、3つの特徴から結論づけられる。

 

①トラック運転手など低賃金のマッスルワーク労働者の賃金が上がっているが、高賃金の情報産業、公益産業、金融産業などでは下がっており格差が縮小している

②企業の求人難が続いているなかで、労働者の自発的離職者数が過去最高になっているが、これは労働者が職を選んでいることを示している。つまり労働者のバーゲニングパワーが高まっている

③求人企業は価格転嫁能力がある企業であり、企業の超過利潤が賃金上昇に転換されることにより、消費が高まり成長率が上昇すると予想される

 

の3つである。

 

[図表7]米国における低労働参加率の下での求人難・離職者増
[図表7]米国における低労働参加率の下での求人難・離職者増

 

[図表8]米国セクター別実質賃金推移-非管理労働者(平均時給)
[図表8]米国セクター別実質賃金推移-非管理労働者(平均時給)

 

2016年ごろより企業の単位労働コストが上昇し、労働分配率も底入れ反転し、その傾向がコロナショック以降も継続しているが、どちらも家計の労働所得を高めるもので、経済全体では大変ポジティブな動きと言える。

 

米国経済の最大の問題は企業部門や富裕層に超過利潤が蓄積されそれが実需に結び付きにくいことにあるが、それが是正されつつあるのである。

 

つまりコロナ禍の経済困難のなかで、よい賃金上昇が加速しているのである。

 

[図表9]米国労働分配率と景気推移/[図表10]米国単位労働コスト推移
[図表9]米国労働分配率と景気推移/[図表10]米国単位労働コスト推移

 

米国バブル破裂論など…「センセーショナリズム」の誤り

以上のよいインフレを米国の経済司令塔、財務省とFRBは熟知しており、オーバーキルはまず惹き起こさないと考えられる。

 

いままで米国の過剰金融緩和がバブルを作った……その咎めでバブル崩壊と深刻な景気後退が迫っている、とのセンセーショナルな見方は、的外れである。

 

 

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録