なぜFRBは本質的に「ハト派」なのか
米国株式に対して楽観的になれる、より根本の理由は、米国で健全なインフレが起きており、FRBはそれを殺す過剰引締めは行わないと考えられるからである。
米国経済の基本矛盾に対峙する米経済の司令塔
米国経済は基本矛盾に直面している。r1>g>r2(利潤率>成長率>利子率)である。企業の超過利潤が金融市場に滞留し歴史的低金利を惹き起こしてきた。
これまでのところ、この高利潤と低金利の組み合わせが株高を誘導してきたが、両社の乖離が際限なく広がれば、経済は大恐慌に陥ってしまう。その根本的で望ましい解決策は、賃金の上昇による消費の拡大である。
なぜ賃金上昇が「よいこと」なのか
いま起きている賃金上昇がよい賃金上昇であることは、3つの特徴から結論づけられる。
①トラック運転手など低賃金のマッスルワーク労働者の賃金が上がっているが、高賃金の情報産業、公益産業、金融産業などでは下がっており格差が縮小している
②企業の求人難が続いているなかで、労働者の自発的離職者数が過去最高になっているが、これは労働者が職を選んでいることを示している。つまり労働者のバーゲニングパワーが高まっている
③求人企業は価格転嫁能力がある企業であり、企業の超過利潤が賃金上昇に転換されることにより、消費が高まり成長率が上昇すると予想される
の3つである。
2016年ごろより企業の単位労働コストが上昇し、労働分配率も底入れ反転し、その傾向がコロナショック以降も継続しているが、どちらも家計の労働所得を高めるもので、経済全体では大変ポジティブな動きと言える。
米国経済の最大の問題は企業部門や富裕層に超過利潤が蓄積されそれが実需に結び付きにくいことにあるが、それが是正されつつあるのである。
つまりコロナ禍の経済困難のなかで、よい賃金上昇が加速しているのである。
米国バブル破裂論など…「センセーショナリズム」の誤り
以上のよいインフレを米国の経済司令塔、財務省とFRBは熟知しており、オーバーキルはまず惹き起こさないと考えられる。
いままで米国の過剰金融緩和がバブルを作った……その咎めでバブル崩壊と深刻な景気後退が迫っている、とのセンセーショナルな見方は、的外れである。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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