「ロシア・ウクライナ戦争」の影響はピークアウトか
インフレの第二の理由は、戦争による原油・ガス・穀物価格の高騰だが、これもピークアウトする可能性が高い。ロシア禁輸の代替エネルギーが模索され、ドイツでの石炭火力の増産、LNG輸入、EUでの原発稼働強化、サウジなどでの原油増産が追及されている。
バイデン氏の7月中東歴訪は、米国エネルギー政策の供給重視への転換を示唆する。他方ロシアからのガス・原油供給はインド・中国向けへの輸出先シフトにより大きくは減少しない。供給は増え、世界成長鈍化により需要は軟化する。いま急騰している米国のCPI非耐久財指数もピークアウトしていくだろう。
米国の賃金上昇率、減速が明確に
インフレの第三の理由は賃金上昇。インフレによる購買力低下を補填するための賃金上昇は2021年後半から加速していたが、前月比ベースでは鈍化してきた。最も広く観測されている平均時給(Average Hourly Earnings)ははっきりとピークアウトしたように見える(例外は建設業)。
前月比推移は、21/9月(0.5)、10月(0.6)、11月(0.4)、12月(0.5)、22年1月(0.6)、2月(0.1)、3月(0.5)、4月(0.3)、5月(0.4)、6月(0.3)となっている。消費者心理の悪化、株価などの資産価格下落が効果を示し始めたとも考えられる。
株価は年初ピークから25%下落し、株式時価総額は42兆ドルから32兆ドルまで10兆ドル減少した。同様に仮想通貨時価総額が2.9兆ドルから0.9兆ドルへと2兆ドル、合計12兆ドルの富が失われた。
資産効果(1の資産価格変化のGDP消費に対する影響)は3.2%と計算されているので、それによる消費需要減は4,600億ドル、GDPを約2%押し下げる。いわば利上げの脅しだけで株価が下落し、自動的景気抑制(Automatic stabilizer)が働いているとみることができる。ミシガン消費者信頼感指数の極端な落ち込みはそうした心理の悪化を大きく投影している。
これらを総合すると今年後半以降、物価データが顕著な上昇率低下を示すことになるだろう。