中国政府は、2022年3月初旬から4月中旬に発生したコロナ再拡大に対処するため、厳しい「ゼロコロナ政策」を実施したが、経済に大きな影響が及び、また人々の間で不満が渦巻く事態となった。指導部は責任を擦りあいながらも、同時に「20大」に向けた策略を展開するという、複雑な動きを見せている。3~6月初旬にかけ、中国語ネットワークで観察された様々な動きや情報を通じ、中国における本問題の政治・経済・社会面の意味合いを複数回に分けて探る。最終回の今回は、清零政策を巡る指導部内の様々な動きを読み解いていく。

20大に向け「無風状態ではない」中南海

◆李克強氏の動向

李氏は上海で厳しい封城措置が採られていた4月、江西省南昌を視察し現地当局者らとの座談会に出席。同氏とその随行者が全員マスクを着用していない様子がテレビで配信され注目された。

 

南昌でも当時感染者が増加しており、これは同氏が経済への影響を考えない清零政策に反旗を翻し(叫板)、もっとよい対応策があると、習氏と政策を競う意図を示した(唱対台戏〈シー〉)と受け止められた。李氏は5月、雲南を視察した際にも同様にマスクを着用していない様子が配信された。

 

その後も李氏は上記の通り、様々な場で指導部の発言としては異例の強い表現で経済に対する危機感を表明。李氏率いる国務院は4月の早い段階から、「感染防止対策を単純化して一律機械的(一刀切)に実施することを厳禁する」通知を発出。また上海など8都市を試験地として、隔離期間の短縮など清零を緩和する通知を発表したが、通知は凍結され1日足らずでネット上から削除された。

 

経済担当首相として経済への危機感を表明することは当然の役割分担とは言え、習氏とは著しく異なるメッセージを発し続けている。

 

人民日報など党メディアが李氏の演説や発言を全文掲載することは稀で、全人代での政府工作報告や全人代後記者会見などに限られるが、5月、人民日報、光明日報、新華社といった主要党メディアが通常の国務院会議で経済への危機感を表明した李氏発言を全文掲載。その他李氏の外交活動も詳報するなど、にわかに李氏関連の記事が増える一方、習氏関連記事が減る時があった。

 

5月末人民日報は「中国特色社会主義新時代はいかに開拓・構築されてきたか」とする論評を掲載し習氏の功績を讃えたが、19大以来、重要文書で「新時代」に必ず冠されていた習氏の名前がなく、また「習思想」という表現もなかった。これも何か特別の意味があるのかと詮索されている。

 

反習筋からは、「史上最弱首相とされてきた李氏が習氏に取って代わる兆候」とする「希望的」観測が台頭。党・政府幹部ポストは2期までとする党内規則、「党・政府指導幹部任期に関する暫行規定」(2006年公布)6条が修正されていない点に着目し、総書記を李氏に譲り、習氏は党主席ポストを復活させて就任するという妥協が成立したとの憶測がある(党規約は、幹部ポストは終身ではないとしているだけで、任期について具体的規定はない)。

 

単に、退任間近の李氏に悪化する経済の全責任を投げる習氏の策略という可能性もある。李氏が脚光を浴びる分、うまくいかなかった場合、李氏をスケープゴート(替罪羊)にできるという読みである。

 

◆習氏の動向

習氏は武漢情勢が悪化していた時に雲南(2020年1月)、河南省鄭州で大洪水が発生した際に西蔵を訪問したように(同7月)、今回も上海ではなく海南を訪問し、「思想麻痺や厭戦感情を克服し、動態清零を堅持する」と強調。本問題を「政策災難」と捉え、自らの足元をすくわれないよう上海を回避したと市民の怒りを招いた。

 

習氏はこの間、他にも北京オリンピックや経済政策の担当幹部との会議に出席し、また中国人民大学を訪問、5月には共産主義青年団(共青団)創立百周年大会に出席するなど、その精力的な活動が伝えられたが、(上記、李強氏や孫春蘭氏の「親自」発言に反し)、明らかに「上海封城」「感染急増」を巡っては行動に「空白」があった。上海には意識的に距離をとり、全国的に感染が急増する状況に関し公かつ直接的にはなんらの認識や政策を表明することはなかった。

 

習氏が「組織が四肢麻痺状態にある」などとたびたび批判してきた共青団の大会に出席したことは、一般に同団が胡錦涛氏や李克強氏に連なる反習勢力の1つと見られており、習氏としてはすでに同団を掌握したことを対外的に示し、もう1つの反習勢力である江曾派との分断を図る意味で、出席すること自体が重要だったと考えられる。

 

2021年に中国全土でいったん感染が収まった際、習氏は中国の体制が諸外国より優れていることが示されたと宣伝し、清零政策を自らの政治的資産・名声の一部に位置付けた。それ故、その軌道修正は自らの失敗を認めることを意味し、反習勢力のかっこうの攻撃材料となる。

 

感染拡大が続く場合、国家主席3期目続投を狙う習氏としては動態清零の看板は下ろさず具体策を調整し実質「ウイルスとの共存」の動きを黙認、そして何らかの理屈を付けて「動態清零勝利宣言」を出すという選択肢ではないか(図表1)。

 

(注)習「(清零)堅持をやめる?」。救命ボートは「ウイルスと共存」。 (出所)2022年4月20日付世界新聞網(在北米華僑ネットワーク)
[図表]民の怨みで習氏は清零を翻意? (注)習「(清零)堅持をやめる?」。救命ボートは「ウイルスと共存」。
(出所)2022年4月20日付世界新聞網(在北米華僑ネットワーク)

 

なお真偽不明だが、海外中国語ネットワーク上で2020年に一度あった、習氏が脳動脈瘤を患っているとの噂が5月に再び流れた(手術を勧められたが拒否し、伝統的中国治療を選択した云々)。

 

台湾国安部門は習氏の健康状態を一定程度把握しているとしたうえで、「言われているほど深刻な状況ではない」とし、いずれにせよ、絶えずこうした噂が出ることは、中南海内部で世論合戦をしかけ、習氏に退任を迫る(逼宮)動きがあることを示すものとしている。

 

その習氏は、上述李氏との妥協成立という憶測の他、20大では続投して党総書記の名前を党主席に変え、毛以来の「領袖」の称号も手に入れるつもりとの見方もある。

 

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