「相続」ではなく、「資産活用の話」として切り出す
清田家の場合、「父」から相続の話があったわけではなく、「私」から話を切り出しました。「清田会計事務所」を開業してすぐの1997年ごろのことです。
私から話を振った理由は、
●父は先代から「家督相続」によって財産を譲り受けたため、「均分相続」の大変さを知らない
●私は息子でありながらも、税理士として客観的、専門的な意見ができる
と考えたからです。当時の私はまだ、相続税の実務には精通していませんでした。それでも農協時代から、農家の方々の、
「農地が財産に含まれていると、遺産分割がまとまりにくい」
「農地は面積が大きいので、地域によっては評価額が高額になり、相続税が多額になる」
「農地を相続すると、固定資産税、維持費用などのコストや管理の手間が生じる」
「親が相続の方向性を示さないまま亡くなると、相続人同士が揉めやすい」
といった相続のトラブルを見ていたため、「早くから相続対策すること」の必要性を感じていました。
ただし、「相続対策をしたい」とストレートに切り出すと、父が機嫌を悪くするかもしれません。そこでまず、「税理士の意見」として、
「自宅の裏山が、不良資産になっている」
「うちは、現預金よりも土地のほうが多いから、資産の組み換えをしたほうがいい」
ことを指摘しました。
「資産の組み換え」
活用していない不動産を売却して現金化する、不動産を売却した資金で賃貸物件を購入するなど、高い収益を生むように転換すること。
自宅の裏山は、約1ヘクタール(1ヘクタールは、100m×100mの広さ)。収益性はなく、固定資産税だけがかかっていた状態です。「ほったらかし」にはできないため、草刈りもしなければなりません。1ヘクタールの山林を維持管理するのは、時間とお金がかかります。
利用価値があるのなら、保有することにも意義はあります。ですが、ただ持っているだけでは資産ではなく、負債です。
利用価値がなくても評価額はつくため、裏山を相続するときに相続税が課せられます。
父も当然、
「裏山には、農地や宅地としての利用価値はない」
「この裏山の相続には、相続税がかかる」
ことは理解していたはずです。
それでも父がこの土地にこだわったのは、
「代々受け継いできたものを、自分の代で手放すことはできない」
「売ってしまったら、土地を残すことができない」
という心情的、感情的な理由からでした。
裏山の整理をする前に、父の気持ちの整理が先決です。
父が「裏山を整理すること」に納得するまでに3年、裏山を整理するまでさらに2年、裏山の売却には、「約5年」かかりました。
裏山を区画整理や宅地造成してから売却することも考えました。そのほうが高く売却できるからです。
「区画整理」
土地の区画や境界・道路などを変更・整備すること。
「宅地造成」
宅地以外の土地を住宅地にするため、土地の形状を変更すること。
ですが、
●工事費用は、土地の所有者が自己資金として捻出しなければならない(区画整理の場合は、補助金が出る)
●父が所有する裏山を区画整理すると、9割方、土地がなくなってしまう
ことから、山林の状態のまま売却しました。
「裏山の売却資金」は手をつけずに貯めて残し、父が亡くなったあとの「相続税資金」(納税資金)として使っています。父が亡くなってから慌てないように、
「相続税を払うための現金は、父が亡くなる前からキープしておこう」
と考えていたからです。
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