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3. 世界と日本のマスク制限の状況
また、日本政府は日本を訪れる旅行者に対して、6月7日に公表された各観光関係者向けの「ガイドライン」の内容遵守を求める。ガイドラインでは「事前に民間医療保険に加入してもらうこと」、「マスク着用や手指消毒の徹底」、「添乗員からの感染防止対策に関するこまめな注意喚起」などの留意すべき事項がまとめられている。厳しい条件が課される背景には、日本と異なり、外国ではあまりマスクをしていない人が多いとの認識があると思われる。
オックスフォード大学によると、「外出時は常時マスク着用」を課している国は、アジア太平洋では23%であるのに対し、ヨーロッパでは7%、南北アメリカでは4%と少ない。また、「マスク推奨」あるいは「制限なし」の国は、アジア太平洋では2%であるのに対し、ヨーロッパでは45%、南北アメリカでは14%と高い。確かにこの数字を見ると、不安を覚える人も多いかもしれない(図表4)。
しかし、このデータにおいて、日本は「マスク推奨」の国、政府の規制という意味では、実は制限が緩い国に該当している。我々は、いわゆる周囲の目を意識し、暗黙の了解のなかで「外出時においても常時マスク着用が必要」という常識とか同調圧力の中で生活していることに改めて気づかされる。東京五輪の際にも外国からの訪日客には厳しいルールが課されたが、彼らのほとんどがマスコミや五輪関係者なので、訪日目的は仕事であり、マスク着用のルールを守ってもらいやすい状況であったはずだ。
これからやって来る訪日客は、レジャーとして休暇を快適かつ楽しく過ごそうと日本を選んだ客であり、相対的にルールを守ってもらいにくいことは容易に想像できる。また、訪日客の立場に立てば、日本における暗黙の了解は知りえないルールであり、政府が課す正式な法的な義務でない限り徹底は難しいのではないだろうか。宿泊施設、観光施設など受け入れ側にとっても、本来は客商売であり、マスクをはずし、笑顔で客を迎え入れたほうが良いはずだ。どのような状況になったらマスクを外してよいのか、もう少し具体的に明確化すべきように思われる。
4. おわりに
国内では、主要な観光地で順次ラグジュアリーホテルが竣工を迎えており、外国人観光客を物理的に受入れる環境はコロナ禍前よりも整いつつある。しかし、外国人の入国制限解除が決まったものの、世界的な制限緩和の流れの中で、日本は取り残されつつある状況に変わりはないように思う。勿論、新型コロナウイルスに関しては依然として分からないことも多く、必ずしも日本が外国の状況に追随する必要はなく、日本が独自の方法で対応していくことも重要であると思う。
しかし、経済の回復が他の先進諸国と比較して遅れていることも事実であり、そのことで苦しんでいる人も多くいる。特に観光業にとっては非常に厳しい状況が続いており、今回の政府の対応で、ようやく明るい兆しが見えてきたというところである。コロナ感染対策も引き続き重要ではあるが、外国からの訪日観光客への対応は、科学的データに基づく、より合理的なものになることを期待したい。受け入れ側にとっても、訪日客にとっても快適な環境を整えていくという視点を忘れずに水際対策、マスク制限などと、新型コロナウイルス感染症対応とのバランスを取り、より現実的な対応を検討することが必要だと思われる。
渡邊 布味子
ニッセイ基礎研究所
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