前回は、金融庁が新たに制定した「改正保険業法」の概要を説明しました。今回は、「お客様のニーズ」という言葉に潜む問題点を見ていきます。

ニーズに応える=要望に的確に応えるではない!?

前回に引き続き、新たに制定された「改正保険業法」の落とし穴について説明します。

 

改正保険業法の中に、「お客様のニーズをきちんと汲み取っているか、加入までの流れ、打ち合わせ当初・申し込み前・最終意向を証拠として残しなさい」という項目がありますが、これを間違えて解釈したら大変なことになります。

 

そもそも、どんなに丁寧に説明をしたところで、お客様の要望をしっかりと聞き出せていなければ意味がありませんし、「役に立たない保険」への加入がお客様の強い要望だとしたら、汲み取るわけにはいきません。

 

これはどこまで説明したかを書面で確認するようなことではなく、営業担当者とお客様とのコミュニケーションの問題のはずです。営業担当者がお客様の要望を伺い、的確に把握しプロとしての提案をできてさえいれば、保険加入のミスマッチは防げるはずなのです。

 

その過程を省いてしまうと、いわゆる「一般論」の話に戻ってしまいます。

 

お客様は一般的な保険、保険料の相場、そういった平均的な保険に加入しておけば、とりあえず安心だろうと思ってしまいますし、営業担当者側も「お客様が求める保険だから」というひと言で済ませてしまいます。

売り手の逃げ道に使われている「ニーズ」という言葉

「お客様のニーズだから」

 

仕事のできない営業担当者にとって、これほど強い切り札はありません。誰も反論できない言葉です。それが本当にお客様の望んだことなのか、そんな検証をも切り捨ててしまう言葉であることは確かです。

 

保険ショップに来店したお客様の多くが真っ先に求めるのは医療保険です。営業担当者は医療保険を1件募集すれば、その分の営業成果を得ることができます。でも、医療保険では亡くなったときの保障はないことを知らないお客様もいらっしゃいます。

 

亡くなって、死亡保障がないことを知ったお客様は「こんなはずではなかった」と思うでしょう。残念ながら、お客様ご自身はもうこの世にはいません。困るのは残されたご家族だけです。

 

それでも、保険担当者は「医療保険がお客様のニーズだったので」と言えてしまいます。

 

「お客様のニーズ」を満たしていたとしても、それだけでは決して安心とは言えないことがわかるでしょう。「お客様のニーズ」という言葉には、このように意外な盲点があるのです。

 

特に仕事のできないダメな営業担当者にとって「お客様のニーズ」は魔法の言葉です。お客様が本当に求めていることは何か、必要な保険は何なのか、そこまで突き詰めて考えなくても何とかなってしまう切り札です。

 

ましてや、簡単に「説明を受けた」とサインをしてしまっていたら、ダメな営業担当者はこの法律改正を悪用するかもしれません。後から泣きを見るのはお客様のほうです。「知らなかった」とか、「聞いていない」と反論は一切できなくなってしまうからです。

 

[図表]「ニーズだから」に要注意

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    本連載は、2015年6月26日刊行の書籍『死亡保険金は「命の値段」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    杉山 将樹

    幻冬舎メディアコンサルティング

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