遺言と異なる遺産分割は条件つきで可能
遺言と異なる遺産分割をするためには、以下の条件を満たしていなければなりません。
- 遺言で遺産分割が禁止されていない
- 相続人全員の合意が必要
- 遺言執行者がいれば同意が必要
- 相続人でない受遺者がいれば同意が必要
それぞれの条件について詳しくお伝えします。
遺言で遺産分割が禁止されていない
遺言では、遺産分割の方法を指定するほか、死亡から5年を超えない期間を定めて遺産分割を禁止することもできます(民法第908条)。
遺言と異なる遺産分割をするためには、遺言で遺産分割が禁止されていないことが前提となります。遺言に遺産分割を禁止する内容の記載がないか確認しましょう。
相続人全員の合意が必要
遺言に遺産分割を禁止する内容の記載がなければ、遺産分割協議によって相続人全員が合意することで遺言と異なる遺産分割が可能になります。
遺言執行者がいれば同意が必要
遺言では遺言執行者を定めることができます。遺言執行者が相続人でない場合は、遺言執行者の同意を得ることも必要です。
遺言執行者の同意は、民法で明確に求められているわけではありません。しかし、遺言執行者がいるとき相続人は遺言の執行を妨げてはならないとされている(民法第1013条第1項)ことから、遺言執行者の同意を得ておくことは必要と考えられます。
相続人でない受遺者がいれば同意が必要
遺言で相続人以外の人に遺産を渡すように指定されている場合は、その人(受遺者)の同意も得なければなりません。
受遺者の同意を得た後の手続きは、包括遺贈の場合と特定遺贈の場合で異なります。
遺言で割合のみを定める包括遺贈であれば、受遺者に遺贈の放棄をしてもらうことになります。包括遺贈の放棄は、相続放棄と同様に家庭裁判所への申し立てが必要です。
遺言で遺産を指定する特定遺贈であれば、受遺者に遺贈を放棄する旨の意思表示をしてもらうことになります。特定遺贈を放棄する意思表示は当事者どうしですればよく、家庭裁判所への申し立ては不要です。
遺言と異なる遺産分割…遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書は遺産分割の話し合いの結果を書面に記したものです。
遺言と異なる遺産分割をする場合は、相続人(遺言執行者、受遺者)の全員が遺言の内容を確認して、それとは異なる遺産分割をすることに同意している旨を記載します。
文例は次のようなものが考えられます。
遺産分割協議書
令和○年○月○日、東京都○○区○○3丁目4-7 被相続人、相続隆の死亡により開始した相続の共同相続人である相続一郎、相続花子2名は、その相続財産について次のとおり遺産分割協議を行った。
なお、被相続人は平成○年○月○日付自筆証書遺言を作成しているが、遺言作成時とは遺産の状態が大きく異なるほか、相続人の状況も変化している。そのため、被相続人の遺志を尊重しつつ、共同相続人全員の合意によりこの遺産分割協議書を作成した。
記
(以下省略)
※遺言執行者、受遺者の同意を得た場合はその旨の記載も必要です。
遺言と異なる遺産分割をするときの登記の方法
不動産について遺言と異なる遺産分割をした場合は、名義変更の登記で注意が必要です。
特定遺贈があってそれとは異なる遺産分割をした場合は、原則ではまず遺言に沿った相続登記を行った上で、次に贈与または交換による移転登記を行う必要があります。
- 相続を原因とする所有権移転登記:遺言のとおりに遺産を相続したとして登記する
- 贈与(交換)を原因とする所有権移転登記:相続人の間で財産を贈与(交換)したとして登記する
ただし、実務においては上記のような二段階の移転登記をしないで、直接遺産分割協議による相続登記をする運用がなされることもあります。
遺言と異なる遺産分割をするときの相続税の考え方
お伝えしたように、遺言と異なる遺産分割では、一度遺言のとおりに相続してその後相続人の間で財産を贈与(交換)したと考えることができます。
しかし、相続税の計算では、はじめから遺言と異なる遺産分割をしたことにします。相続人の間で財産の贈与や交換があったとして、贈与税がかかることはありません。
ただし、遺言で相続人以外の受遺者に特定遺贈があったときに、相続人と受遺者で財産を取り換えて遺言と異なる遺産分割をする場合は例外です。この場合は、遺贈された財産に相続税が課税され、その後財産を交換したとして、譲渡益に所得税が課税される可能性があります。
遺産分割協議がうまくいかない場合
遺産分割において遺言は最大限尊重されるべきものですが、相続人全員の合意や遺言執行者、受遺者の同意があれば、遺言と異なる遺産分割をすることができます。
しかし、いざ遺産分割協議を始めようと思っても、実際にはうまくいかないケースも多々あるようです。特にもともと遺言があったケースだと、「遺言ではこの財産は自分がもらうはずだった」「遺言にはこう書かれていた」という思いもあり、揉める原因になってしまうこともあります。
そういった場合には、相続問題に詳しい弁護士に相談することも方法の一つです。