(※写真はイメージです/PIXTA)

長生きするには、どうすれば良いのでしょうか? 老化のコントロールは慢性疾患の発症リスクを低減するカギでもあります。今回は主に「センテナリアン(100歳長寿者)」に着目し、長寿の秘訣を探っていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

「健康に気を使い過ぎる」のは本末転倒かも

■のちに「フィンランド症候群」と呼ばれることになった、とある調査

フィンランド保険局が、血圧やコレステロール値が高かった40~45歳の管理職の男性約1200人を対象として、「健康に良い生活習慣」がどれほど慢性疾患のリスクを減らすのかというのを調べました。これは全体では3000人以上を対象とした研究ですが、そのうちの約600人に定期健診、栄養学的チェック、運動、タバコ、アルコール、砂糖、塩分摂取の抑制指示に従うように依頼しました。そして、対照群として同じく約600名には自主的な生活を送ってもらいました。つまり健康管理をきっちり行う介入群と、自主的な節制に任せる対照群に分けて15年間フォローするという実験を行ったのです。

 

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〔調査の詳細〕

対象:循環器疾患の危険因子の評価が可能であった3313人です。これを研究開始時(1974年)に、以下の6群(実質5群)に分けました。このうち、臨床的には健康だが心血管疾患の危険因子を有する1222名の男性2群に分けて比較試験が行われました。

 

(1)介入群[612人]と(2)対照群[610人]として、循環器疾患の高危険群であるが健康である人を、無作為に割り付けた)

 

(3)循環器疾患の低危険群[593人](低リスクなので介入の必要性がないと判断された)

 

(4)除外群[563人]

(すでに循環器疾患の症状があるなどの理由による除外。これは介入群・対照群より当然ハイリスク)

 

(5)協力拒否・無回答群[867人]

(もともとは介入群・対照群と同じ基準で選ばれたのですが、研究へ参加しなかった人です。若干、介入群・対照群よりリスクが高い傾向にあります)

 

(6)研究開始時までに死亡した群[68人]

 

(1)介入群に対しては、5年間(1974~79)の介入期間中4ヵ月ごとの受診時に、食事、運動、飲酒、喫煙に関して保健指導を行い、血圧と血清脂質値が目標値に達しなかった人に対して、降圧剤および脂質降下剤を投与しました。

 

(2)対照群は、同じ年頃で同じ職種の600人のコントロール群で、こちらには何の指示も与えず、薬も使いませんでした。調査票の記入だけを依頼し、自主的な生活に任せたのです。

 

5年後の介入終了時点で、(1)介入群の32%が降圧剤、37%が脂質降下剤の投与を受けており、対照群ではそれぞれ15%と0%でした。

 

生活習慣指導がどのような影響を与えたかについては、保健指導をしても介入群・対照群間の喫煙量や飲酒量にいずれの時点でも有意差はなく、両群ともに、喫煙量、飲酒量は減っているということには留意する必要があります。

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「フィンランド症候群」の調査は、大方の予想に反した衝撃的な結果となりました。(1)介入群と(2)対照群を比較した研究結果で、後者の健康管理をされていない(2)対照群のほうが、健康を管理されていた(1)介入群よりも、心臓血管系の病気、高血圧、がん、各種の死亡、自殺、いずれについても数が少なかったのです。介入的に健康管理をされていないほうが、病気もしないし死亡率も低かったということです。

 

介入的な健康管理によって肥満度、血圧、総コレステロール値、中性脂肪値が有意に改善したにもかかわらず、介入群で心疾患死、外因死、15年間の総死亡が有意に多かったということは驚くべき結果と言えるでしょう。

 

■ただし「健康管理や治療は無意味」と解釈するのは誤り

「フィンランド症候群」を取り上げた記事の中には、この結果を基に、肥満度や血圧、コレステロールの値を治療することは無意味だという説明がされたり、薬は意味がないと主張したりといった解釈もありましたが、それは間違っています。

 

3313人全体の解析で年齢、血圧、コレステロール値、喫煙のいずれもが有意に総死亡リスクを上げ、年齢、血圧、コレステロール値が有意に心疾患死亡リスクを上げていることから、古典的危険要因を改善することの意義は揺るがないと言い切れます。対照群においても自主的な節制は行われていたのですから、決してどんな生活習慣でも問題ないということではありません。

 

■健康長寿のカギは「健康的な生活」と「心のあり方」の両立かもしれない

この研究結果の解釈については多くの議論がなされていますが、最初に触れたセンテナリアンのアンケート調査の結果を合わせて考えてみると、精神的なストレスが関係しているのではないかと、私は思います。

 

健康に気を付けて生活や食事を整えることはとても大切だと思います。ただ、ストレスを感じながら嫌々やっていると、思うような結果が出ない可能性があるのではないでしょうか。つまり、健康に良い生活をすることは間違っていませんが、厳密に守らないといけないと思うあまりストレスを感じてしまい、それが身体全体の「ホメオスタシス」を崩す可能性があるのです。

 

最初に紹介したセンテナリアンは、健康な生活習慣を基本的には大切にしながらも、それにこだわるのではなく、精神的ストレスを過剰に感じない健康な心のあり方をも両立させていると言えるのではないでしょうか。

 

いくら健康に良いと言われていることでも、こだわるあまりストレスに感じたり、周りを責めたり攻撃したりするようでは決して健康に良いとは言えないのです。健康に対しての「意識の高い系」の人が、はまりやすい罠かもしれません。健康情報に過敏な人ほどメンタル的にはストレスがかかります。こだわりを作り過ぎると罪悪感にも繋がりかねません。その結果、余計に免疫力を下げてしまうのです。

 

私の知る限りでも、患者さんの中には「小麦は身体に良くない」という情報を知ったばかりに、それにこだわり過ぎ、食べた後で罪悪感を抱いている人も少なくありません。真面目な人ほど早くに亡くなるというデータがあるくらいです。

 

健康長寿を実現するためには、これまであまり言われてこなかった、心のあり方にも注意を向けてみることも意味があるのではないでしょうか。いい意味での「鈍感力」が必要だと思います。

 

 

 

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

 

藤井 祐介

株式会社イームス 代表取締役社長

メタジェニックス株式会社 取締役

株式会社MSS 製品開発最高責任者

 

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