1.「ダークホース」日本株の逆襲
2.日本株が底堅いワケ
3.あるか?日本株の「本格反騰」
ここもとの円安もあって、個人マネーの海外志向が加速しています。一部報道によれば、今年3月末の外国株投信の純資産残高は19.7兆円に達し、内外株式で運用する国内外株投信を5年ぶりに上回りました。また、4月末の外貨建て投信の純資産残高が40兆円に達した、との試算も報じられています。
個人投資家の視線は米国を始めとする海外投資に集まっていますが、足元では前評判がけっして高くなかった「ダークホース」である日本株が健闘していることをご存知でしょうか。
1.「ダークホース」日本株の逆襲
■サプライチェーンの混乱、高インフレ、主要中銀による金融引き締め、ロシアのウクライナ侵攻、そして中国のゼロコロナ政策による都市封鎖と、世界の株式市場は悪材料の波状攻撃にさらされています。このため、ハイテク株が大きなウエイトを占める米ナスダック総合指数は、最高値を更新した昨年11月の月末終値から足元まで▲22.0%下落しています(5月末時点、配当込みトータルリターン)。また、米国を震源とする株価の調整は他の海外市場にも波及し、米国を除く世界株式指数(MSCI ACWI 除く米国)も同▲6.8%の下落となっています。
■世界的な株式市場の調整が続く中、けっして前評判の高くなかった「ダークホース」の日本株が、意外な健闘を続けています。同期間のリターンを見ると、日経平均株価は▲0.9%の下落、TOPIXに至っては0.6%のプラスと、他の市場ではあまり目にしない底堅さを見せています。こうした「日本株の底堅さ」の背景には、どのような要因があるのでしょうか。
2.日本株が底堅いワケ
■日本株が健闘する背景は円安も含め様々ですが、その中でも影響が大きいものとして、①景況感のトレンドの違い、②バリュー株優位の市場環境、③金利上昇に強い財務体質、の3点をあげることができそうです。
<底堅いワケ、その1:景況感のトレンドの違い>
■欧米の主要国では高インフレと急激な金融引き締めへの警戒感から、景気の先行きに対する不透明感が強まっています。また、中国もゼロコロナ政策による都市封鎖の影響から、景況感が悪化しています。
■一方で日本では、①金融緩和の継続、②周回遅れでのコロナ禍からの脱却、③比較的マイルドなインフレ水準などから、足元の景況感は海外の主要国とは異なり堅調に推移しています。
■春先以降の購買担当者景況感指数(PMI)の推移を見ると、米国、中国、ユーロ圏では低下、英国では大幅低下となる一方、日本では小幅な改善が続いています。
<底堅いワケ、その2:バリュー株優位の市場環境>
■高止まりするインフレに対応するため、米国をはじめとする海外主要国の中央銀行は積極的な金融引き締めに転じています。こうした金融政策の転換から世界的に金利が上昇する中、長期にわたる利益成長を織り込んだグロース株の高いバリュエーションは、調整を余儀なくされています。
■このため、世界の株式市場では「バリュー株優位」の展開が続いています。そして、自動車、産業機械、総合商社といった大型の割安優良株の存在感が大きい日本株は、ハイテクを中心としたグロース株のウエイトが大きい米国株などを大きくアウトパフォームする結果となっています。
<底堅いワケ、その3:金利上昇に強い財務体質>
■世界的に金利上昇が強く意識される局面にあって、内外から批判の的となっていた日本企業の分厚い内部留保が、財務面での強みとなっている可能性があります。
■これまでの緩和的な金融環境下で、積極的な財務戦略を駆使して大胆なM&Aを行ってきた海外の企業は、ここへきて過剰債務からくる支払い金利の上昇に神経をとがらせるようになっています。
■一方の日本企業は、財務レバレッジ(総資産÷株主資本)が低位に留まっており、こうした懸念とは縁遠い企業が多いように思われます。
3.あるか?日本株の「本格反騰」
■弊社では今後の日本株について、底堅い業績動向や国内景気の回復を前提に堅調な推移を見込んでおり、2022年12月末の目標株価は日経平均で30,800円、TOPIXで2,190ポイントを想定しています。とはいえ、今後の企業業績の動向次第では、「思わぬ一段高」が生じる展開も排除できない状況にあると思われます。
<歴史的に見て極めて割安なバリュエーション>
■「思わぬ一段高」がおきる場合の第一の原動力は、歴史的に見ても極めて割安な予想株価収益率(PER、12ヵ月先)です。足元のTOPIXの予想PERは約12.4倍(5月末)と、過去10年間の平均値である14.9倍を大きく下回るだけでなく、生起確率で約68%をカバーする1標準偏差(σ)の範囲からも下振れています。
■このため、現在の予想PERは「かなり悲観的なリスクシナリオ」を織り込んでいると考えられ、今後堅調な企業業績が確認されるだけでも、予想PERに相応の上昇圧力がかかる可能性があります。
<業績の上方修正が続けば「掛け算」でプラスに>
■今期の日本企業の業績予想は、不透明な事業環境もあり保守的なものが少なくありません。特に自動車など輸出企業は、想定為替レートを1ドル115円から120円程度とかなりの円高水準で設定しています。対ドルで1円の円安は、日本企業の経常利益を約0.4%押し上げるとの試算もあり、現在の為替水準が続くだけでも4%超の業績上振れ要因となる計算になります。
■このため、昨年の秋口から悪化が続いてきたTOPIXのリビジョンインデックス(上方修正された銘柄数の割合から下方修正の割合を引いたもの)も、ここへきて底打ちの兆しが見られます。
■今期及び、来期のコンセンサス予想一株当たり利益(EPS)から推計した、今年12月末時点の予想EPSは164.8ポイントですが、仮に業績予想が4%上振れると、予想EPSは171.4ポイントに上昇します。そして、こうした業績予想の上方修正が断続的におこった場合、現在の極端に割安な水準にある予想PERは、大きく上方に修正される可能性が出てきます。
■仮に、予想PERが過去10年の平均値から▲0.5σ割安な水準(13.7倍)まで戻った場合、「予想EPSと予想PERの掛け算」から、TOPIXの推計値は2,348ポイントになります。また、足元のNT倍率(14.3倍、5月末現在)が続いた場合、日経平均株価は約33,500円となり、ともに20%超の上昇余地が出てくることとなります。
■企業業績は為替以外にも様々な要因から上下しますが、現在の保守的な前提に基づく業績予想が上方修正されていった場合、予想PERの上昇との相乗効果で株価の「思わぬ一段高」を演出する可能性があり、注意しておきたいと思います。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「ダークホース」日本株の逆襲…日本株の「本格反騰」はあるか?【専門家が解説】』を参照)。