イラク・アフガンからの退役軍人と「脳腫瘍の発症」
アメリカ軍はイラク・アフガニスタンにて多量の廃棄物を燃やしてきた(イラクでは1日140万トンもの量)。
そこで有害ガスを吸ってしまった多くの兵士たちは、アメリカに戻ってからバイデン氏の息子と同じように脳腫瘍を発症してしまっている。ぜんそくや偏頭痛を発症した元兵士も数多い。
しかし、有害ガスの吸引とそれらの症状との間に因果関係が証明されていないため、これまで保険金・給付金がおりることはなかった。愛国心を示してイラク・アフガンに行った兵士たちにもかかわらず、である。
そうした状況下でバイデン氏は、2022年3月1日の一般教書演説で「因果関係がわからなくても保険・給付を拡大すべきだ」と語り、共和党からも拍手喝采を浴びた。
退役軍人を非常に大切にしていることも、「派兵しない」と宣言した理由のひとつだろう。退役軍人を大切にしているにも関わらず新たに兵士を送り出してしまっては筋が通らない。
バイデン大統領は、2020年の選挙での公約「アフガンからの撤退」を実現させている。日本では米軍撤退後の混乱ばかりに注目が集まっているが、オバマ大統領もトランプ大統領も目標としながらも成しえなかった「撤退」を、1年目で果たしたことは評価されるべきことでもある。そしてこの件からも米軍を大切にしていることがうかがえる。
「トランプ氏が大統領だったら」ウクライナ侵攻は…
「トランプ氏が大統領だったら、ウクライナ侵攻はどうなっていたか」という議論もよく聞かれる。トランプ氏は、「大統領がジョージ・W・ブッシュのときロシアはジョージアに侵攻した。オバマのときはクリミアに侵攻した。今、バイデンになってウクライナに侵攻した。しかし、自分のときはなにもやっていない」と宣伝している。
しかし、「トランプ氏が大統領を続投していたらロシアは行動を起こさなかった」と果たして言えるだろうか。
トランプ政権下で国家安全保障補佐官を務めていたボルトン氏は、今年3月1日、ワシントンポストのオンラインイベントにて「トランプが2期目の大統領であったなら、NATOから離脱していただろう。そしてそれはプーチンが望んでいたことだ」と述べた。
ボルトン氏が発言するほどであるから、NATO離脱の信憑性は高い。プーチンが望むようにアメリカがNATOから離脱すれば、ウクライナ侵攻を後押しするかたちになったはずだ。そして侵攻後も、NATOやEUとの関係のギクシャクしていたトランプ氏には、現在のような西側諸国の結束を実現することは当然難しかっただろう。バイデン氏が大統領になってすぐにNATOやEUとの関係を修復したから、今の結束があるのだ。
「選挙利用」…トランプ氏とウクライナとの関係
加えて思い出してもらいたいのは、2020年の選挙の際、トランプ氏はゼレンスキー氏に圧力をかけディール(取り引き)を持ち出していることだ。
バイデン氏の次男・ハンター氏がウクライナのガス会社の元役員であることを利用し、「バイデン氏にまつわる情報を渡したらワシントンで首脳会談をやる」と言ったと言われる。ウクライナとの関係を選挙利用した過去を持つのだ。
2016年の選挙時には「ロシア疑惑」もあった。この件に関してトランプ氏は有罪になってはいないが、ロシアにハッキングをして民主党全国委員会のメールを公開したことは、アメリカの情報機関が事実として認めていることだ。
トランプ氏はヒラリー氏の選挙で“勝った”にも関わらず、「ロシアが手伝ったから自分が大統領になれた」と思われているのが気に食わなかったようである。
そこでなんと、「ウクライナがアメリカの民主党の全国委員会と協力して、ロシアにハッキングしたのだ」という陰謀論に食いつき、「ウクライナがアメリカ大統領選挙に介入した」と主張した。そしてゼレンスキー氏に対し、「ウクライナに民主党の全国委員会のサーバーがあるから」と探すよう命じている。
トランプ氏がもし今でも大統領であったなら、トランプ氏とゼレンスキー氏の関係は明らかに「強い立場と弱い立場」であり、バイデンとゼレンスキーのような対等な関係ではなかっただろうと推測できる。
もちろん今、アメリカはウクライナに向けて武器を送っているので「強い立場」だと見ることもできなくはないが、それでもゼレンスキー氏とトランプ氏との関係は、バイデン氏との関係とはまったく違う。そういった意味でも、やはり上手くいかなかったのではないだろうか。