(画像はイメージです/PIXTA)

ウクライナ侵攻とアメリカを巡って、「バイデン大統領が“弱い”から起きたのでは?」「アメリカはなぜ派兵しないんだ」「トランプ氏が大統領だったらこんなことには…」という意見が聞かれることは多い。バイデン大統領は“弱い”大統領なのだろうか。そしてトランプ大統領なら、侵攻を食い止められたと言えるのだろうか。バイデン大統領の考え方や、世論調査から読み取れるアメリカ国民の思いとともに、明治大学政治経済学部・海野素央教授が解説する。

アメリカ社会に依然として存在する「分断」

通常、戦時にリーダーの支持率は急上昇する。であるにも関わらず、バイデン大統領の支持率は膠着状態にある。

 

その理由は「陰謀論」を信じている人の増加にあると言えよう。

 

エコノミストとユーガヴが5月21日~24日に実施した共同世論調査では、ウクライナ難民を「受け入れるべきではない」と回答した人は22%にものぼった。回答者をトランプ支持者に絞れば37%である。

 

トランプ氏は大統領時代、メキシコとの国境に壁の建設を開始し、“反難民”の政策を進めてきた。そこで一部の人の内に強くなった排外的意識は、今もなお消えていないことがうかがえる。

 

さらに、3月26日~29日に行った同調査ではトランプ氏支持者の27%が「新型コロナウイルスのワクチンは自閉症を引き起こす」という陰謀論を信じている。トランプ政権下で多くの陰謀論が蔓延ったことで、それを当然のものとして信じてしまう層が醸成されたのだ。

 

彼らは、“アメリカ第一主義”でない現在のアメリカ政治に強い不信感を持っている。トランプ氏の統治時代に生まれた分断は根深い。「戦時下の大統領であろうが絶対にバイデン氏を支持しない」という姿勢を崩さない人が一定数存在するために、支持率が上がらないのである。

国のリーダーが持つにふさわしい「力」とはなにか

エコノミストとユーガヴが5月21日~24日に実施した共同世論調査では、「バイデン氏は強いリーダーか」という質問に対し、「強い」と回答した人が38%、「弱い」と回答した人が61%であった。

 

しかしながら、2020年の選挙でバイデン氏に投票した有権者を見ると73%が「強い」と回答している。支持者のなかでは「強いリーダー」とみられているのだ。一方、4月16日~19日に行った同調査でロシアのプーチン大統領について「強い」と回答した人は61%、「弱い」と回答した人は38%であった。バイデン氏とちょうど逆の数字である。

 

そして、2020年の選挙でバイデン氏に投票した有権者に絞ってみても、「強い」が51%、「弱い」が48%と、「強い」が3ポイント上回る結果となっている。

 

では、「強さ」とは一体何であろうか。バイデン氏がポーランド・ワルシャワで「力(power)」について語った言葉とともに考えてみたい。

 

まずプーチン氏は「力」が正義だと思っている。その力とは「軍事力」「強制力」「権力」であり、相手をねじ伏せることを目的としたものだ。

 

しかし、バイデン氏が考える「力」はそれらとはかけ離れたものだ。「正義感」すなわち「道徳観」と「倫理観」こそが力であると語っている。

 

バイデン氏は最初の妻と娘を1972年12月25日、クリスマスプレゼントを買いにいった道中でトラックに衝突されたことにより亡くしている。2015年には、長男を脳腫瘍で亡くした。こうした過去を持つバイデン氏が、人の死を深く理解していることは想像に難くないだろう。

 

そもそも、バイデン氏が選挙でトランプ氏に勝てた理由のひとつはここにある。

 

バイデン氏は、コロナ禍の選挙で「食卓の空席」についてよく発言していた。コロナウイルスに感染したことで亡くなった方の家には、食卓に空席ができる。この言葉は、多くの遺族の胸に響いたことだろう。人の死を理解した“感情移入力”こそが、バイデン氏の「力」なのだ。そしてその考え方を理解している支持者には、7割から強いリーダーと認められているわけである。

 

しかし、一般的なアメリカ人にとっての力はそうではない。そこがアメリカ国民とバイデン大統領の間にあるズレであり、世論調査にも鮮明に表れてしまっている。

 

こうしたことは、日本で普通に情報に接していると気づけないことではないだろうか。テレビでウクライナ問題が取り上げられると、軍事専門家やロシアの専門家が出演することが多く、バイデン氏のモノの見方、考え方、価値観が語られることはない。

 

そのため「バイデンは弱い、ロシアがとんでもないことをしているのになにをやっているんだ」と考える人も多いに違いないが、ここでまた新たに世論調査の結果からアメリカ国民の意見を見てみたい。

次ページ米国民が「ウクライナへの派兵は悪い考え」とするワケ

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