ウクライナ侵攻で思い知った、日本の地政学的リスク
ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア、中国、北朝鮮という民主主義で統治されていない核保有国に囲まれている「日本固有の地政学的リスク」について、多くの人々が改めて意識させられたのではないかと思います。
その背景には、日本の第2次世界大戦で敗戦と、戦勝国であるアメリカによる軍事的・政治的政策があるという事実があります。まず読者の皆様は、現在の日本が国際社会に置かれている「立ち位置」について、歴史的な経緯から、冷静かつ客観的に理解することが重要だといえるでしょう。
アメリカの南北戦争はもとより、関ヶ原の戦い、大阪の陣、島原の乱、西南戦争、戊辰戦争などの歴史的な転換点を考えてみてください。大きな戦争に敗北した側は「賊軍」として貶められ、歴史的に見ても「官軍」に成り上がるのは容易ではありません。正義が勝つというよりも、「勝てば正義」というのが世界の常なのです。
また、常に紛争にさらされていた大陸と異なり、海という国境に守られてきた日本は、世界情勢の本質を読む能力、つまり大局観が著しく低いように思われます。
これはとても怖いことです。なぜなら、正確な情報をもとに、物事の全体的な状況を把握し、判断して行動しなければ、どんなに努力をしたところで水の泡になりかねません。第2次世界大戦の経験からも、大局観のなさが国民にいかに苦労を強いる結果になったかは、明確ではないでしょうか。
歴史から見た日本は「賊軍の土地」
さて「賊軍の土地」である日本に住んでいる以上、常にその安全や資産等は基本「官軍」の管理のもとに、危険にさらされる可能性がある、と考えて間違いないでしょう。とくにその草刈り場の管理事務所ともみなされる「日本国政府」の近くに管理される資産ほど、そのリスクが高くなるということです。
一方、戦後経済は繁栄し、とくに対外純資産は、357兆円もの膨大な額を保有しているといわれています。その意味では、バブルが弾けて成長が鈍化しても、個人の金融資産は増加し続けています。しかしまた、日本国政府の借金は雪だるまのごとく、年々増加しています。
このことから、将来の夢や希望を抱く成長戦略が描けていない現在の日本においては、「虎の子の金融資産の死守」と「活用戦略の確立」が、当面の課題ともいえるのではないでしょうか。
ちなみにこの対外純資産というのは曲者です。これは巨額な資産を国外に持っている、ということでしかないので、帳簿上の数字でしかありません。その資産が存在している国がその債務を「チャラ」にするリスクがあるのです。
たとえば、もしも日本がアメリカに攻撃などをした場合、米国内の日本関係のすべての資産が凍結、没収される、ということは理論的にはあり得る話です。そうなった場合わざわざアメリカに出向いて実力行使をして取立や回収に行く、というのはまったく不可能で現実的ではない話となります。
日本の資産構成は、世界の強国と「真逆」
また、基本的に世界の富の源泉は、地球の資源に付属しているものと考えられます。つまりは、不動産、農地、海等、衣食住に関するものと、鉱物資源ということになります。これらは基本的に不変の価値を持ち続け、貨幣や有価証券など、人間社会が作り上げて価値を保証しているものとは異なり、本質的なものと考えられます。
そしてこれらの資源は基本自分の生活行動範囲のなかになければ、なんの保証にもならないものなのです。したがって「実効支配」というものが重要になってくるのです。
日本にこれらの資源が乏しいという事実は、非常に不利な要素といえるでしょう。アメリカ、英国、オーストラリアなどは資源国であり、かつ対外純資産は赤字です。日本と真逆の構造です。どちらの国がクオリティー・オブ・ライフ(QOL)が高いかは、それぞれの読者の判断にお任せしたいと思います。
そんな環境に置かれた資産家や富裕層には、国外の金融機関等に口座開設し、資金や資産を分散させよう、という動きが改めて強まっているように思います。
通常よりも資金力がある、つまり選択肢も多いわけですから、座してなんとかを待つのではなく、取り得る選択肢を最大限活用しようとする動きは当然であるといえるでしょうし、それが特権でもあるはずです。
資産管理の基本として、まずは日本からできるだけ遠くに資産をおくのはどうか、ということに検討事項となります。ただし「官軍」国がよいのか、政治的な中立国がよいのかは別途の議論が必要だといえます。
この「賊軍」という概念を認識することは、実は富裕層や資産家が計画を考えるうえでベースにしなければならないポイントです。卑屈になれとか、リベンジしろという意味ではなく、客観的・第三者的な事実として理解しなければならないと思います。この大局を押さえずに議論し計画をしたところで、木を見て森を見ず、ということになりかねないわけです。
ここでは少々極端な例や表現を敢えて使っていますが、あくまでもわかりやすくする目的であり、不快に感じせる意図はありません。
さて小難しい前置きはさておき、まずは海外のプライベートバンクについてのおさらいと傾向等の分析をお伝えしていきたいと思います。
遠坂 淳一
株式会社 ジェイ・ケイ・ウィルトン・インベストメンツ 代表取締役