企業のスキャンダル、資産にもオーナーにも大ダメージが…
富裕層はしばしば、莫大な資産を防衛する目的で、海外の「ファンデーション」や「トラスト」を使った慈善事業(フィランソロピー:philanthropy)を活用しています。
※ 日本ではファンデーションは財団、トラストは信託と訳すことができますが、似通ったものではありますが厳密に同義ではありませんので、留意ください。
「フィランソロピー(英: Philanthropy)」
基本的な意味では、人類への愛に基づいて人々の「well being」(幸福、健康、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)など)を改善することを目的とした、利他的活動や奉仕的活動、等々を指す。あるいは慈善的な目的を援助するために、時間、労力、金銭、物品などをささげる行為のことである。
出所:Wikipedia 日本語版より
ここ最近、一代で急成長を遂げたオーナー系企業の「致命的スキャンダル」が続いています。ビジネスは常にリスクとの闘いでもありますが、そのような新興企業に思わぬリスクが潜んでいることが露呈したというわけです。
程度の差こそあれ、同様の不祥事はたまに見られますが、会社の根幹を揺るがすような大きなものになると、会社だけでなく、創業オーナー一族にまで大ダメージが及ぶことになります。
「ファンデーション」「トラスト」の設立で資産を保全
では、そのようなリスクにはどう備えればいいのでしょうか。
ひとつの選択肢として「海外でファンデーション/トラストを設立する」という方法があります。
「ファンデーション」に関しては、日本にも「公益財団法人」が存在します。これと似た法人を海外で設立し、その運営にオーナー一族が永続的に携わる、というのが大まか流れです。
日本の公益財団法人もそうですが、このファンデーションは資金の供託者、つまりオーナー一族の私的な目的のために運営するのではなく、あくまでも公的な福祉などの目的のために運営されることになります(ちなみに、日本の公益財団法人にはいくつかの問題点・懸念点が指摘されていますが、ここでは割愛します)。
「トラスト」は、資金を拠出した際に、出資者がその資金や資産の運用方法・処分方法等を決定したうえで作ります。基本的には「受託者」がその決定に沿って運営します。それには、下記のルールが適用されます。
①トラストに資金を移転すると、出資者の手から100%切り離されます。
➁一旦トラストに資金が入ると、原則として、そのトラストの内容を変更することは一切できません。
現状の資産所有者は、上記ルールに基づいた「自身のコントロールが及ばなくなる箱」へと資産を移転することで、資産の支配権や所有権がなくなります。それにより、万一移転をしたあとに元の所有者が損害賠償等で訴えられても、移転した資産には債権者の手が及ばなくなります。
アメリカのような訴訟社会では、常に訴訟を起こすチャンスを狙っている弁護士が多数存在しますが、その弁護士が最初にチェックするのが「訴訟対象は支払いに十分な資産を保有しているかどうか」という点です。
相手が大企業で、多額の資産を持つことが明確であれば問題ないのですが、資産がなければ、せっかくの訴訟も「骨折り損のくたびれ儲け」になりかねません。従って、訴訟弁護士にとって、ここは外せないポイントなのです。
つまり、「ファンデーション」や「トラスト」を設立・資産移転ずみなら、「訴訟弁護士」のターゲットからは除外されることになります。
ファンデーションとトラストと比較をすると、ファンデーションは法人格を持って運営されることから、基本的に設立のハードルは高くなります。ちなみに、アメリカに限らず、スイスやリヒテンシュタイン等でも財団法人を作ることは可能です。
自らの資産を拠出してファンデーションを作った資産所有者は、「フィランソロピスト」として、資金と人材(親族)を投入・配置して、慈善活動に携わることができます。現状の事業を遂行するうえで、過去や現在に生じた会社や一族の大きなマイナス・イメージを大きく回復する効果も期待できることに注目です。
ただし、ここまでの話はあくまでも日本国外での話です。ファンデーションやトラストを現地の法律でつくったとしても、そのままでは日本国内への持ち込み・適用はできません。
最も気を付けるべきは、まず日本の法律、とくに税制に配慮をした仕組みを作らなければならない、という点です。
「慈善活動のため、海外のファンデーションやトラスト作り、日本国内で活用しよう」というのであれば、高度な知識と経験を持つ専門家チームを入れ、慎重に検討・計画遂行をする必要があります。招き入れる専門家たちは、日本と現地の税法に明るく、海外のファンデーションやトラストを熟知しており、なおかつ現地の有力な専門家との強いつながりがあることが必要です。
海外でファンデーションを設立するには、コストを考えると、最低100億円ほどの資産が必要となりますが、それに値する額の資産を保有しているなら、一度検討してみる価値があるといえます。
遠坂 淳一
株式会社 ジェイ・ケイ・ウィルトン・インベストメンツ 代表取締役