【婚姻と養育費】日本では泣き寝入り多数の「養育費踏み倒し」だが…アメリカ司法「非情なまでに取り立てる」スゴい仕組み

【婚姻と養育費】日本では泣き寝入り多数の「養育費踏み倒し」だが…アメリカ司法「非情なまでに取り立てる」スゴい仕組み
(※写真はイメージです/PIXTA)

数年前、アメリカではビル・ゲイツやジェフ・ベゾスといったビリオネアたちの「ギガ離婚」が話題になりました。日本でも離婚を考える人は多く、その中にはもちろん、富裕層も含まれています。しかし、離婚には様々な思惑が交差するだけでなく、各種の手続きも複雑化しており、非常に面倒なプロセスをたどることになりがちです。今回は、アメリカと日本の離婚事情を見ていきましょう。

離婚に双方の合意が必要な日本、一方アメリカでは…

アメリカと日本との離婚事情は、当然ながら差異があります。まず日本ですが、基本、双方が合意しなければ離婚できません。一方が離婚を要求する場合は、DV、不倫、経済的な問題等、相手に何らかの欠陥・問題があるという大義名分を探すことになります。また、事情によっては裁判所等に判断をゆだねることになりますが、泥沼かつ不毛な戦いに時間を取られることになりがちです。

 

出典:Our World in Data (https://ourworldindata.org/marriages-and-divorces)
[図表1]日本の離婚率の推移 出典:Our World in Data (https://ourworldindata.org/marriages-and-divorces

 

日本と対照的に、アメリカでの離婚は「どちらかが希望すれば、いつでも離婚可能」と明快です。日本のように、相手の問題点を指摘して離婚の正当性を証明する必要はありません。この離婚の形態は、2010年にニューヨーク州で適用され、いまは全州で同様の方法での離婚が成立するようになりました。

 

アメリカの裁判所は、それぞれのカップルの言い分の正当性について一切判断しません。どちらかが離婚をしたいと言えば、離婚を認めることになっています。訴訟社会のアメリカでは、裁判所や弁護士の仕事量は多いのですが、離婚問題については、少なくとも事務的処理面以外のかかわりは持ちません。

 

身体的DVや経済的DV、浮気、ギャンブル等も、それ自体は離婚手続きとは関係なく、逆に、真面目、献身的、相手方に協力的な人であっても考慮されないということです。つまりアメリカは、夫婦のどちらかが離婚を切り出せばいつでも離婚成立するという、儚くも緊張感ある関係ということになります。

 

出典:Our World in Data(https://ourworldindata.org/marriages-and-divorces)
[図表2]アメリカの離婚率の推移 出典:Our World in Data(https://ourworldindata.org/marriages-and-divorces

 

ちなみに、アメリカで富裕層の結婚や再婚は、婚姻時に契約書を作成して取り決めするのが通常です。そちらの方がお互いに安心だからです。

 

資産や収入が多い場合、結婚期間が長ければ長くなるほど、財産分与などの財務面での権利関係が生じて複雑になってきますので、これは必須事項だといえるのではないでしょうか。

子どもとお金の取り決めは、裁判所がクールに判断

アメリカの離婚時において、裁判所や弁護士が積極的にかかわるのは大まかに「子ども」と「お金」の2点です。つまり、子どもの親権、養育費、養育計画、相手への財産分与、慰謝料などです。これらは自動的に養育費の金額や支払期間等が算出できる仕組みがあり、それをベースに金額などが決定されます。

 

経済面で揉めることも少なくありませんが、揉める可能性が最も高いのは親権です。離婚の責任についてはまったく追及されない分、双方が親権を主張するほど、揉めるリスクは高くなります。

アメリカで「養育費の踏み倒し」が不可能なワケ

日本では、養育費等を裁判所で決定しても支払われないケースが多いのですが、アメリカではそういったことは一切発生しません。なぜなら、各州に、裁判所で決定した養育費を定期的に取り立てて回収する公的機関が置かれているからです。

 

この機関は、支払い義務のある片親への定期的な支払い請求や受領、計算などのすべてを代行しておこないます。もし支払いが滞ると銀行口座の差し押さえ、免許証、パスポートとの取り消しなどを警告して支払いを強力に促す「取り立て機関」として機能し、支払いが遅延した場合は、銀行並みに金利が課すよう徹底されています。

 

このように、親権を持たない親は、子どもが成人になるまで養育の支払いを義務付けられ、また、踏み倒せない仕組みになっています。親権を持つ親・子どもの経済的なサポートを、強制的におこなうことになっているのです。

形骸化・硬直化した、日本の結婚制度

日本の場合、配偶者や子どもにDVを働いている人であっても、その本人が納得しない限り、離婚はスムーズではないようです。しかし、そうなれば、子どもが大きくなるまで離婚はできない、つまり、再婚もすぐにはできないということになります(もちろん、子どもにとってその方がいい場合もあるでしょうが…)。

 

アメリカは、離婚が容易であるとともに、片親として生活・子育てするための制度が整備されています。日本のように離婚しにくい制度は、一見、子どもにメリットがあるように思えますが、関係が壊れ、形ばかりとなった家庭で育つのが本当に幸せなのかという考え方もあるでしょう。

 

日本は結婚も終身雇用のような扱いで転職は想定されておらず、生涯離婚しないことが前提とされています。しかし、最近の日本でも、弁護士への問い合わせとして最も多いのは離婚についてだと聞きます。現在の結婚の実情に、法律が追いついていない、つまり、急激に変わりつつある社会の実情に、日本の法律や制度がキャッチアップしていないのかもしれません。

子どもの「連れ去り天国」だった日本

さらに日本は、2014年にハーグ条約の「子どもの連れ去りに関する条約」を締結するまで、国際的な子どもの連れ去り行為が認められていた、つまりは野放しになっていました。

 

国際的な批判を浴び、2014年にようやく批准しましたが、国内ではいまだ、親権を持たない親の面会権の行使は強制力ではなく、あくまでも任意となっています。この点においては海外からも、日本ではいまだ親権を持たない親や子どもの権利が守られていないのでは、という懸念が持たれている模様です。

 

出典:HCCH (https://www.hcch.net/)
[図表4]ハーグ条約批准国の分布 出典:HCCH (https://www.hcch.net/)

体面&経済面重視の日本、実体(愛情)重視のアメリカ

日本では、お互いの愛情がなくなり実質的に関係が破綻していても、「結婚」という体裁を維持する夫婦が多い一方、アメリカでは愛情の存在が重視されます。アメリカでは「仮面夫婦」という関係はほとんどなく、双方の愛情の有無が重視されています。そして、愛情がないのであれば、即離婚となるのです。

 

日本は戦前よりははるかに物理的に豊かになっています。しかし、それならもっと精神面でも豊かさを得られるよう、実情に即した柔軟な婚姻制度を再構築してもいいのではないでしょうか――もちろん、同時に子どもの幸せを守りながら、というのが前提にはなりますが――。もしかしたら、このような制度の形骸化・柔軟性のなさが、近年の未婚化や少子化に影を落としているのかもしれません。

 

 

遠坂 淳一
株式会社 ジェイ・ケイ・ウィルトン・インベストメンツ 代表取締役

 

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