「読み・書き・計算」は重要な基礎学習です。しかし、受験のための準備教育が「将来の学びの基礎」になっていなければ、低学年から学力を積み上げていけません。「解き方を教え込む指導=受験対策」と勘違いしている指導者が多い現状が変わらない限り、問題は解決しません。自分で試行錯誤して答えを導き出す経験をしてこなかった当然の帰結だといえます。幼児教育実践研究所 こぐま会 代表の久野泰可が解説します。

「考える力」が疎かでは、必ずどこかで壁にぶつかる

こぐま会では、秋に受験し、4月から小学校に入学する子どもたちの「就学準備クラス」を用意しています。小学校の教科書を使うのではなく、これまで学習してきたこぐま会の「セブンステップスカリキュラム」を、主に算数・国語につなげていく学習内容で構成したもので、「教科前基礎教育」から「教科学習」への橋渡しです。上からおろすのではなく、幼児から積み上げる下からの発想で、これまで学んだことを最大限生かした指導です。

 

●算数の学力につながる内容として目標にしていること

 

1. 数の内面化

2. 四則演算の考え方

3. 計算力を高める暗算トレーニング

4. 生活のなかにおける数の変化を、文章を読んで数式化する

 

●国語科につながる内容として重視していること

 

1. 読解力につながる読む力の基礎づくりとしての「音読」

2. 作文力につながる、話す力

3. 日本語を正しく身につける言葉の学習

 

「読み・書き・計算」はもちろん大事ですが、その前に、それを支える「考える力」を育てなければなりません。そこが疎かになったままの「形」だけの学力では、必ずどこかで壁にぶつかります。

私立小学校低学年の学力は、以前より相当落ちている!?

最近の私立小学校低学年の学力が以前と比べると相当落ちているという話を、学校関係者からよく聞きます。

 

私立ですから当然入学試験を通ってきた子どもたちのはずで、相当量の勉強、特にペーパートレーニングをやってきているはずです。それなのに低学年の学力が以前と比べて落ちていると聞くと、「なぜ?」と思わざるを得ません。その原因をいくつか考えてみます。

 

1. 受験向けにやってきた学習が、教科学習の基礎になっていない。勉強の仕方に問題があり、事物経験のないままペーパーだけの学習に終始している

 

2. 厳しい人間関係のなかで、学習する意欲がそがれてしまっている

 

3. 低学年を受け持つ教師の指導力不足。幼児から小学生になる子どもの成長過程や物事の理解の道筋をわかっておらず、用意された教科内容を教えることだけに集中している。子どもが物事を理解し身につけていく視点が欠落している

 

4. 小学校の学習が、幼児のときの学習にくらべて魅力的な内容になっていない

 

このような複合した原因で子どもの学力が落ちている現状がありますが、一番の原因はなにより、幼児期に学習意欲が育つ教育を受けてこなかった結果だと思います。

 

受験のための準備教育が、将来の学びの基礎になっていかない勉強法をとっていたのでは、低学年の段階から学力の積み上げができるはずはありません。自分で試行錯誤して答えを導き出す経験をしてこなかった当然の帰結といえます。

 

解き方を教え込む指導が受験対策だと勘違いしている指導者が多い現状が変わらない限り、この問題は解決しないでしょう。

 

答えを導き出すプロセスを大事にする教育ではなく、答えさえ合っていればどんなやり方でも構わないという指導がまかり通っており、それでは学習したことが教科学習の基礎として蓄積されていかないのです。

一つの学びが次の学びの基礎になる教育でなければ…

たとえば、数の構成や数の合成・増減など、小学校入試でよく出される課題があります。これは四則演算の考え方の基礎で、数式を使わずに答えを導き出す課題です。

 

私たちは、具体物を使って数の操作を十分にさせたあと、最後は指を使わず暗算で答えが出せるように練習します。もし暗算ができなければ、おはじき等を使って答えを導き出させます。時間はかかりますが、それを繰り返しおこなうことで数が内面化され、指を使わなくても暗算で答えられるようになります。

 

ここで指を使ってしまったら、そのときはすぐに答えが出せますが、数の内面化が進まず、結果的に暗算ができるようになった子どもに追いつかなくなってしまいます。

 

その場限りの解き方を教え込むのではなく、将来にわたって意味のある方法をとらなければなりません。それが学力の転移です。

 

一つの学びが次の学びの基礎になっていくような教育でなければ、幼児期の基礎教育は成り立ちません。

 

就学準備クラスの2週目あたりでは、たし算・ひき算の基礎を学習しますが、数の操作においてスピードに差が出てくる大きな原因は、数が内面化しておらず、指を使った操作をいまの段階でもしている子がいる、ということです。この傾向は特に一般生に目立ちます。これは、暗算で数を操作することをやってこなかった結果に他なりません。

 

私は現在、私立の小学校5年生の子どもたちの算数も指導していますが、この最初の学力差は相当長い間尾を引き、特に4年生で学ぶ「3桁÷2桁」「4桁÷2桁」の計算になったとき、決定的な差となって現れます。

 

しかし振り返ってみれば、その一番の基礎は、1年生の後半でおこなう「繰り上がり」「繰り下がり」の計算です。それがどれだけ早く正確にできるかが、それ以降の計算のすべてを決めるといっても過言ではありません。

 

そしてこの「繰り上がり」「繰り下がり」の基礎が、この入学前の学習に絡んでいるのです。

入学前の数感覚や数の処理の速さは、後の学習に影響大

10までのたし算・ひき算はいずれ誰でもできるようになるし、「繰り上がり」「繰り下がり」も同様でいつか必ずできるようになるから、いまそんなに心配しなくていい…。

 

確かにその通りです。しかし、積み上げの学習はどの時期にどれくらいできるかが、後々の学力と極めて高い相関関係にあるのです。いつ、どれくらいのスピードで正確にできるかには決定的な違いがあり、あとでできるようになるのだから心配ない、といってはいられないのです。

 

これは、学習の積み上げや、ちょっと背伸びすればできるかどうかの学習の「最近接領域」と関係があり、大切な観点です。つまり、入学前の数感覚や数の処理のスピードは、結局後々の数の学力形成に影響があるということです。

 

逆にいえば、入学を迎えるいまでこそ、これまでの受験対応の学習を生かして徹底した橋渡しをしておかなければならないということです。

 

こぐま会の就学準備クラスでは、かけ算やわり算の考え方も学びます。小2・小3でやるべき課題をなぜ今やるのか。それは、セブンステップスカリキュラムのなかで将来のかけ算やわり算にからむ考え方の基礎を、生活場面を通して、「一対多対応」や「等分」の学習としてすでにおこなっているからです。

 

教科書で割り振られた学習内容の早い遅いではなく、子どもたちの生活に密着した学習内容を継続させ、将来抽象化された数式だけの世界で問題が解決できるようになっていくのが、正しい導き方だと考えているからです。

 

国のほうでも、幼児と小学生をつなぐ架け橋の教育を模索しています。来年あたりから、全国の幼稚園や保育園で具体的な取り組みが始まるはずです。小学生の学びから下におろすという発想ではなく、幼児期の子どもの生活や遊びから始まって、教科学習につなげていくという考え方に立って、日本の幼児教育が改革されていくことを願っています。

 

 

久野 泰可

こぐま会代表

※本記事は、こぐま会ウェブサイトの久野泰可代表取締役のコラム「週刊こぐま通信」を転載・再編集したものです。

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