小学校入試「学力試験だけでは決まらない」現実…合否基準はどこにあるのか?【プロが解説】

小学校受験の傾向分析と対策は、親御さんもアンテナを張り巡らし、情報収集に努めています。実際のところ、多くの親御さんの認識通り、学力が高くてもよい結果になるとはいい切れず、志望校が目指す方針をくみ取り、対応することが大切です。基準となるポイントはどこにあるのでしょうか。

小学校入試は、学力試験だけでは決まらない

11月になると、都内では多くの学校で合格発表がおこなわれ、都立・国立の入試に向けた動きが加速します。コロナ禍2年目となった昨年の入試に関して私たちが関心を持ち、予想したことは次の2点でした。

 

1. 学力試験は少し難しくなるかもしれない

 

2. 行動観察は、指示行動や模倣体操以外に別の要素が加わるかもしれない

 

こうした前提で準備を進めてきましたが、その結果を総括すると、予想通り学力試験はやや難しくなり、行動観察も運動系が中心とはいえ、学校の工夫によってその方法は多岐にわたり、合否判定における行動観察の重要度が増したのではないかとさえ感じます。

 

合否判定に関しては大きな変化はありませんが、兄弟・姉妹関係を重視した学校とそれが影響しない学校とに分かれたようです。また、いくつかの学校を除けば、ご両親の出身如何は合否にほとんど関係なかったように思います。

 

それだけ公平な入試がおこなわれたということですが、合否の基準がなんなのか、それはいまだ不透明であるといわざるを得ません。はっきりいえることは、学力試験だけでは決まらない…これが小学校入試の特徴です。

 

そうはいっても、合否の基準を探り当てておかなければ進路指導はできません。できる限りその根拠を探ってみると、いくつかの視点が明確になってきます。

子どもの表現力を見る課題が頻出

1年以上マスクをした状態で幼稚園・保育園で過ごした子どもも多く、教室でもマスクをしたまま授業を受けることになりました。

 

そのなかで私たちが心配していたことは、発言する機会が奪われたために、例年の子どもたちに比べて自己表現力が劣っているのではないかということです。

 

考え方のプロセスを尋ねても、感じたことを問いかけても、黙ったまま過ごしてしまう時間が長かったように思います。入試でも質問にとっさに答えられないのではないかと心配していましたが、それは特に面接に影響したのではないでしょうか。

 

設問の仕方は学校によって違いますが、子どもの表現力を見る課題が多くありました。従来から言語領域の課題の多くは「聞く力」を見る問題が中心でしたが、コロナ禍のなかでは「話す力」を見る問題が増えたと感じます。

 

特に昨年は、面接においても行動観察においても「話す力」が重視されたようです。非認知能力との関係もあるかもしれませんが、最近の子どもたちにとって一番苦手な課題であることには変わりません。

ものごとへの主体的な関わり

行動観察の変化については、もう少し資料を集めて判断する必要があります。

 

2021年11月の時点で集まった情報を見る限り、体を使った指示行動だけの学校もあれば、制作に特化した学校もあります。

 

指示行動のなかに子ども同士の関わりを見る課題を含んだ、工夫された行動観察をおこなった学校もありますが、このなかで問われているのは、ものごとへの主体的な関わりだと思います。決して訓練によって型を教え込まれて解決する問題ではありません。必要なのは、日ごろの生活や遊びのなかで身につけた本物の力です。

 

ある学校でおこなわれた行動観察の様子を紹介します。子どもたちから聞き取った情報ですから、実際とのずれはあるという前提でご覧ください。

 

2022年度入試 A校「行動観察」

 

最大6人のグループでおこなう

 

1. 色のついたシートに立つ

2. その場で「からだじゃんけん」

3. 立っているシートの色ごとに行く場所をいわれる

4. グループごとに3つの場所(輪つなぎ/宇宙の家づくり/風船運び)をローテーションで回る

 

 

それでは、それぞれの場所で具体的になにをおこなったかをもう少し詳しくお伝えしましょう。

 

★からだじゃんけん

「からだじゃんけん」では、次のような指示行動がおこなわれました。

 

【からだじゃんけん】

「最初はロケット、ジャンケンポン」といいながら、先生と身体を使ったジャンケンをする。

 

 

勝敗によって行動が異なる。

 

●勝ち…自由に歩き回る、または違う色のシートにいく

●負け…その場で2周、ロケットで回る、または手を上から下にゆらゆらさせながら1回転する

●あいこ…その場で手を胸の前に置いて縮こまったり、開いたりを繰り返す

 

 

ここでの課題は、体を使ったじゃんけんの表現(模倣活動)と、勝敗によってとる行為を間違いなくできたかどうかです。

 

★輪つなぎ

次の「輪つなぎ」は、以下のようなものでした。

 

【輪つなぎ】

細長く切った折り紙を輪にして白いシールで留め、長く輪つなぎをする。

 

「お友だちとつないで天の川を作りましょう」といわれ、用意されている2本のポールにお友だちとつないだ輪つなぎをかけて天の川にする。

 

 

お友だちとつないで天の川を作りましょう…ここがポイントです。

 

この輪つなぎは、ある病院の研修会でおこなわれたことがあると以前聞いたことがあります。チームでの医療行為には、一つの目標に向かう協力関係が大事であるということから、そうした課題がおこなわれたようですが、まさしく同じことが入試でも採用されたということです。

 

非認知能力の最たるものです。どうすれば長くつながるかを、みんなで協力し考えながら作業していく課題です。

 

★宇宙の家(基地)づくり

次の「宇宙の家(基地)づくり」は、以下のような課題でした。

 

【宇宙の家(基地)づくり】

用意された材料を使って、グループで宇宙の家(基地)を作る。

 

材料:ダンボール(大・小・長いもの)・ペットボトル(2L)・やわらかいつみ木・細長いジョイントマット

 

 

「相談してください」とはいわれなかったようですが、一つの目標「宇宙の家(基地)づくり」は共有しているわけですから、自然発生的に相談は始まるはずです。

 

ここでは与えられた材料をどう工夫して使うか、自分で提案できるかどうかなど主体的なものごとへの関わりが評価されたはずです。

 

★風船運び

最後の風船運びは、次のようにおこなわれたようです。

 

【風船運び】

用意された道具を使って、箱から箱へ風船を運ぶ。

 

用意された道具:うちわ・ふろしき・三角の布・マット

 

 

ここでも、自ら判断し行動できる主体性が問われています。用意されたものをどのように使って風船を運んだらよいか、また、ひとりで運ぶだけでなく、協力して運ぶにはどうしたらよいかを工夫できるかどうかなどが評価されたのではないかと思います。

現在おこなわれている「行動観察の対策」は見当はずれ

以上、今年おこなわれた行動観察のなかでとても工夫されたものの一つを紹介しましたが、実際に出題されたこれらの課題をみて皆さまはなにをお感じになるでしょうか。

 

私がこの問題をご紹介したのは、現在盛んにおこなわれている行動観察の対策がいかに間違っているかを知っていただきたいからです。

 

多くの幼児教室で場面設定しておこなわれている行動観察が、実は子どもが自分で考え、自分で判断し、主体的に行動する経験を積むのではなく、すべて「型」を教え込む訓練になってしまっているからです。

 

そんなトレーニングを積んでも、実際の場でどうしたらよいか右往左往するだけです。主体性を育てることとは真逆な「型」の教え込みは、子どもが自ら考え行動する「成長の芽」を摘み取ってしまっており、それは学校側が一番嫌うことです。

 

他の学校の問題もかなり工夫されたよいものです。どんな問題が出されているのかを見てください。

 

新型コロナが終息すれば運動系の課題は少し減ると思いますが、今回ご紹介した問題のように、主体的なものごとへの関わりがあらゆる視点で問われることは間違いありません。

 

 

久野 泰可

こぐま会代表

幼児教育実践研究所 こぐま会 代表

1948年静岡県生まれ。横浜国立大学教育学科卒業。1972年現代教育科学研究所に勤務。1983年幼児教育実践研究所「こぐま会」の室長を経て、1986年代表に就任。教育者として常に現場に身を置きながら、国内外で講演を行う。50年に及ぶ教室での実践を通して『ひとりでとっくん』100冊シリーズや、多くの具体物教材・教具を開発。幼児の発達段階をふまえた独自の指導法「KUNOメソッド」は、韓国、中国、シンガポール、ベトナム、タイなど、海外の幼稚園・教室でも導入されている。

●KUNOメソッド
https://www.kogumakai.co.jp/kuno-method/

●週刊こぐま通信
https://www.kogumakai.co.jp/column/president/index.html

著者紹介

連載【受験のプロが解説】小学校受験から見えてきた、幼児教育の「課題と未来と可能性」

※本記事は、こぐま会ウェブサイトの久野泰可代表取締役のコラム「週刊こぐま通信」を転載・再編集したものです。

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