(※写真はイメージです/PIXTA)

「経済のことは神の見えざる手に任せよう」といったアダム・スミス、「貧富の拡大を防ぐため、経済は政府が管理すべき」といったマルクス。歴史を見ても、現代社会の現状を見ても、「経済格差をどこまで容認するか」というテーマが見えてきますが、明確なのは、高額所得者への一方的な課税だけでは経済の発展に支障が出かねない、ということです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

格差のない社会を目指した「共産主義」だったが…

アダム・スミスは「経済のことは神の見えざる手に任せよう」といいましたが、マルクスは「アダム・スミスはまったく間違えている」といいました。

 

マルクスによれば「経済のことを神様に任せておくと、金持ちは一層金持ちに、貧しい人は一層貧しくなる(貧富の格差が拡大する)。経済のことは神様に任せず、全部政府がしっかり管理すべきだ」というわけですね。

 

アダム・スミスのように神の見えざる手に任せよう、という考え方を「資本主義」と呼びます。それに対し、マルクスの考え方を「共産主義」と呼びます。

 

マルクスのいっていることは、理想的に思え、正しそうに聞こえます。そこで、マルクスのいう通りやってみた国があります。ソ連という国です。いまのロシアですね。しかし、うまくいきませんでした。

 

「平等な国を作ろう」という理想を掲げたのですが、それが失敗の源だったのです。平等を目指すからには、全員の給料を同じにする必要があります。そうなると、真面目に働いた人もサボっていた人も同じ給料ですから、だれも真面目に働かなくなってしまったのです。

 

だれも真面目に働かないので生産量は減ります。減った生産物を平等に分けるわけですから、皆が貧しくなります。「平等に貧しい国」になってしまったわけですね。

 

「貧富の格差は悪いことだ」と考えている人は多いでしょう。もちろん、貧富の格差が大きすぎるのは問題です。「貧しい人の子どもは学校に行けないから字が読めず、会社が雇ってくれないから貧しい人生を送る」というのは問題でしょうから。しかし、貧富の格差がまったくない国はうまくいかないのです。

 

そこで、「どれくらいの貧富の格差がちょうどいいのか」ということが問題となります。これは経済学というよりも、政治家が考える問題なのでしょうが。

「累進課税」等の活用で、格差を是正

政府が様々な支出をするために、税金を集める必要がありますが、多くの国で所得に対する課税は累進税率が用いられています。所得の高い人ほど高い税率で所得税を計算するので、所得が2倍になると支払う税金は3倍になったり4倍になったりしかねないのです。

 

これは、無理なく払える人に多く負担してもらおう、という制度なのでしょうが、貧富の格差が拡大しないように、という意味も込められているのでしょう。その際、どの程度の格差が望ましいのか、ということが考慮されているはずです。

 

高額所得者の税率が低すぎると貧富の格差が拡大してしまいますが、高すぎると「頑張って働いても金持ちになれないなら、頑張らない」という人が増えてしまいかねません。

 

頑張るか否か、というだけでなく、リスクを覚悟して儲けを狙うか、という点も問題です。会社を設立して事業を行うと、大金持ちになる可能性もありますが、事業に失敗して無一文になるリスクもあるでしょう。

 

そんなときに高額所得者の税率が高すぎては、だれも起業しなくなってしまい、日本経済が発展しなくなってしまいます。これも、格差のない社会がうまくいかない理由のひとつだといえるでしょう。

 

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