(※写真はイメージです/PIXTA)

報道番組等で、しばしば「経済成長率」という言葉が登場します。経済成長率とは実質GDPの増加率のことで、日本は不況の影響で経済成長率も鈍化している状況です。しかし「経済成長率ゼロ=前年並み」は安定を意味するものではなく、失業率の増加等の現象が見られます。なぜ現状維持ではなく悪化するのでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

「ゼロ成長=経済規模が前年並み」という意味だが…

経済成長率というのは、実質GDPの増加率のことです。実質GDPというのは、日本国内で生産された物(財およびサービス、以下同様)の量のことです。

 

GDP統計については、説明すると長くなるので本稿では詳しい話は省略しますが、「生産された自動車台数の前年比と洋服の枚数の前年比を加重平均したもの」というイメージで考えていただければ大丈夫だと思います。

 

ちなみに「加重平均」というのは、重要度に応じて扱いを変えて平均する、ということですが、ここでは自動車のほうが洋服より重要なので、自動車の前年比を重視しながらも洋服の前年比も考慮する、というイメージですね。

 

「経済成長率がゼロ」ということは、「日本の経済規模が前年並み」だということを意味しています。昨年より生産量が減ったわけではなく、日本人の生活水準が昨年より下がったわけでもないのに、「ゼロ成長だから不況だ」といわれるのはなぜでしょうか。

 

それは、ゼロ成長だと失業者が増えるからなのです。ちなみに本稿では、少子高齢化等の影響については考慮せず、人口は年齢構成を含めて変化しないものという前提で考えることとします。

ゼロ成長で失業が増えるのは「技術の進歩」のせい

日本経済が用いている技術は進歩しています。新しい技術が開発されているということもありますが、新しい機械を導入することで、新しい技術を活用する工場が増えるということも重要です。

 

高度成長期でいえば、手で畑を耕している農家がトラクターを購入すれば、農業従事者1人当たりの穀物生産量は激増したでしょう。トラクター自体が開発されたのは昔のことでも、その農家で使われ始めたことが日本経済にとっては重要なのです。

 

日本人の食べる穀物の量が一定だとすると、日本全体としての穀物の生産量を増やす必要はありません。そうなると、1人の農業従事者が多くの穀物を生産することで、ほかの穀物従事者が失業してしまうことになるわけです。これが、ゼロ成長だと失業が増えるメカニズムです。

 

農業以外についてもまったく同様です。手で洋服を縫っていた工場がミシンを導入し、その後に全自動洋服製造機を導入したため、高度成長期の労働者1人当たりの洋服の生産量は急増したわけですね。

 

トラクターもミシンも全自動洋服製造機も、高度成長期以前から米国にはあった技術ですが、日本にはそれを買う金がなかった、ということなのですね。

「需要」「供給」は同じ速度で増えていくのが望ましい

1人当たりの生産量が増加するというのは、直感的には望ましいことのようですが、上記のように需要が増えないのに供給力だけ増えると失業が増えてしまいます。一方で、需要が増えても供給量が増えないと物不足になってインフレになってしまいます。

 

経済が順調に成長していくためには、需要と供給が同じスピードで伸びていくことが必要なわけです。総じていえば、高度成長期は需要も供給も急激に増加していたのが、最近では需要も供給もあまり増加していない、ということでバランスが取れているわけです。

 

もっとも、実際には同じスピードで伸びていくとは限らないので、政府が需要をコントロールするわけですね。失業が増えた時には政府日銀が景気対策で需要を増やしますし、インフレになった時には政府日銀が景気を冷やすことで需要を供給量に等しくなるまで落とします。それによって失業もインフレもないバランスのよい経済成長が達成されるわけですね。

 

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