アルツハイマー型認知症と慢性炎症
アルツハイマー型認知症は、「アミロイドβが脳に蓄積してしまうことや、中枢神経系や末梢神経系の神経細胞、神経細胞を補佐する役割のグリア細胞に発現されるタンパク質でシグナル伝達の調整や細胞応答などの脳神経系で起こるさまざまな現象に関わっているタウたんぱく質がリン酸化することが主な原因」とするアミロイド仮説が広く支持されています。
しかしアミロイドβが蓄積していても、認知症にならない人もいます。そこで注目されているのが炎症です。アミロイドβやタウたんぱく質が異常な量蓄積することで、脳内に少しずつ炎症が起きてくる。その炎症が長年続くことが原因ではないかとする説です。
この脳炎症仮説のなかには「アルツハイマー型認知症の患者の脳では、ミクログリアという免疫担当細胞がものすごく増えている。そのミクログリアの細胞内にはアミロイドや前駆体タンパクのAPPという老人斑の元になる物質が見つかっている。だから、ミクログリアが炎症を起こしているのが原因なのではないか」とする説もあります。
また東京医科歯科大学の研究グループが行った実験では、マウスの脳に「タウたんぱく質」を注入します。すると炎症が起きて認知機能が悪化しますが、脳内で免疫の役割をしている細胞にタウたんぱく質が入り、別のたんぱく質(PQBP1)と結びつくことで炎症を引き起こすことを突き止めました。薬剤を使ってPQBP1が出ないようにしたマウスでは炎症反応が低下し、認知機能の低下も改善されたと報告しています。
あるいは日本の国立療養所の研究から、ある種の抗炎症薬を飲んでいると、アルツハイマー型認知症になりにくく、アルツハイマー型認知症の病理として知られる老人斑も少なくなることが発表されています。
その他ではアルツハイマー病患者の脳内から歯周病菌が検出され、脳炎症を引き起こすことも分かり、歯周病との関係も指摘されています。いまや認知症の克服は、世界的な課題でもあります。アルツハイマー病の研究では脳内の炎症反応をどう抑えるかということが盛んに調べられており、今後の研究の進展が望まれます。