(※写真はイメージです/PIXTA)

「炎症」とは、体が有害な刺激を受けたり、体の中に異物が侵入してきたりしたときに起こる防御反応です。ところが同じ炎症でも“良い炎症”と“悪い炎症”があり、低レベルの炎症が何年にもわたり続く「慢性炎症」は、気づかないうちに老化やさまざまな病気を誘発する大変怖い現象とされています。慢性炎症を伴う病気には何があるのか、慢性炎症を加速させないためにはどうすれば良いのかを見ていきましょう。みなと芝クリニック院長・川本徹医師が解説します。

アルツハイマー型認知症と慢性炎症

アルツハイマー型認知症は、「アミロイドβが脳に蓄積してしまうことや、中枢神経系や末梢神経系の神経細胞、神経細胞を補佐する役割のグリア細胞に発現されるタンパク質でシグナル伝達の調整や細胞応答などの脳神経系で起こるさまざまな現象に関わっているタウたんぱく質がリン酸化することが主な原因」とするアミロイド仮説が広く支持されています。

 

しかしアミロイドβが蓄積していても、認知症にならない人もいます。そこで注目されているのが炎症です。アミロイドβやタウたんぱく質が異常な量蓄積することで、脳内に少しずつ炎症が起きてくる。その炎症が長年続くことが原因ではないかとする説です。

 

この脳炎症仮説のなかには「アルツハイマー型認知症の患者の脳では、ミクログリアという免疫担当細胞がものすごく増えている。そのミクログリアの細胞内にはアミロイドや前駆体タンパクのAPPという老人斑の元になる物質が見つかっている。だから、ミクログリアが炎症を起こしているのが原因なのではないか」とする説もあります。

 

また東京医科歯科大学の研究グループが行った実験では、マウスの脳に「タウたんぱく質」を注入します。すると炎症が起きて認知機能が悪化しますが、脳内で免疫の役割をしている細胞にタウたんぱく質が入り、別のたんぱく質(PQBP1)と結びつくことで炎症を引き起こすことを突き止めました。薬剤を使ってPQBP1が出ないようにしたマウスでは炎症反応が低下し、認知機能の低下も改善されたと報告しています。

 

あるいは日本の国立療養所の研究から、ある種の抗炎症薬を飲んでいると、アルツハイマー型認知症になりにくく、アルツハイマー型認知症の病理として知られる老人斑も少なくなることが発表されています。

 

その他ではアルツハイマー病患者の脳内から歯周病菌が検出され、脳炎症を引き起こすことも分かり、歯周病との関係も指摘されています。いまや認知症の克服は、世界的な課題でもあります。アルツハイマー病の研究では脳内の炎症反応をどう抑えるかということが盛んに調べられており、今後の研究の進展が望まれます。

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※本連載は、川本徹氏の著書『死肪肝』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

死肪肝

死肪肝

川本 徹

幻冬舎メディアコンサルティング

沈黙の臓器、肝臓。 「気付いたときにはすでに手遅れ」を防ぐために――。 臨床と消化器がんを研究し、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでがん治療の最先端研究に携わった著者が、脂肪肝の基礎知識とともに肝…

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