円安は一体いつまで続く?~円安終了の条件と見通し (写真はイメージです/PIXTA)

円安ドル高基調が続いていますが、いったいいつまで続くのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏が、円安の現状と今後の見通しについて解説します。

1. トピック: 円安は一体いつまで続く?

FOMCや米主要経済指標が予定されていたことから、日本のGW中に円安が進む事態が危惧されていたが、足元のドル円レートは1ドル130円台半ばとGW前である28日夕刻とほぼ同水準に留まっており、円安は一旦小休止している。

 

FOMC後のドル円の反応と背景

最大の焦点であった5月のFOMCでは、22年ぶりとなる0.50%の大幅利上げと6月からのQT(保有資産圧縮)開始が決定された。決定内容としては間違いなくタカ派的であったのだが、市場では既に織り込み済みであった。むしろ、会見においてパウエル議長が「0.75%の利上げは積極的に検討しているものではない」と、さらなる利上げ幅拡大に慎重な発言をしたことを受けて過度の利上げ観測が後退し、ドル円は一時128円台へ下落することになった。

 

昨日(5月5日)のNY市場ではドルが持ち直したものの、既述の通り、130円台に留まり、4月末に付けた20年ぶり高値である131円台前半には届いていない。

 

また、先週の段階で、投機筋の円売りポジションが高止まりしていたことが、さらなる円安進行を抑制した可能性もある。先月26日時点のシカゴ投機筋の円ポジションは9.5万枚の売り越しと大きく売りに傾いていたため、その後の円安進行やFOMC通過を受けて、利益確定的な円の買戻しが発生した可能性がある。

 

このように、最近は円安ドル高の進行が小休止しているが、今後も円安トレンドが続く可能性は高い。

 

 

積極的な円買い材料は現れそうにない

その理由としては、まず、今後も日本・円サイドで積極的な円買い材料は現れそうにないことが挙げられる。

 

これまで、指値オペ等を用いて国内金利を極めて低位に抑制して円安を助長してきたとの見方も多い日銀は、4月末の金融政策決定会合で連続指し値オペの毎営業日実施を決定した。事前には、円安抑制のために長期金利の上昇許容幅の拡大など緩和の手綱を緩めるとの観測が燻っていたものの、逆に現行緩和を継続するとの方針を強調する結果となった。

 

従って、少なくとも黒田総裁任期中(~2023年4月)における緩和縮小方向への軌道修正の可能性が低いことが改めて浮き彫りになった。

 

 

また、実需面での円安材料となっている日本の貿易赤字も当面解消が見込みない。赤字の大きな原因となっている原油価格高騰が長引くと予想されるためだ。一昨年以降の原油価格の上昇は原油の輸入額を膨らませるばかりでなく、一定の時間差を伴ってLNG(液化天然ガス)の輸入価格を押し上げる1ことで、LNGの輸入額も膨らませてきた。

 

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、同国への制裁や自主的な敬遠の動きから西側諸国を中心にロシア産原油を回避する動きが進行しているが、さらに足元ではロシア産原油の最大の輸入先であるEUが同国産原油の禁輸措置を導入する動きを見せている。制裁の効力を高めるためにも、またエネルギー安全保障の観点からも、西側諸国によるロシア産原油離れは続くだろう。

 

その際、仮に制裁に参加していない中国やインドが行き場を失った同国産原油を大量に追加調達すれば、ロシアの生産量は維持されることになるが、輸送面の問題(長距離・高コスト・保険受け手少ない)やレピュテーションリスク、米国などからの二次的制裁リスクから実現可能性は低い。このため、ロシアの原油生産量の減少を受けて世界的な原油需給はタイトな状況が続き、原油価格も1バレル100ドル超の水準で高止まりすると予想される。

 

 

さらに、政府による円買い為替介入のハードルも高い。米国やG7での協調介入実施のためには米国の協力が必要だが、米国にはもともと人為的な為替操作を嫌う傾向があるうえ、現在の米国にとって最優先課題であるインフレを抑えるためには、輸入物価を押し下げるドル高の方が好都合のため、ドル売り介入を快く思わない可能性が高い。実際、4月下旬に行われた日米財務相会談でも、協調介入に対する具体的かつ前向きな話し合いには至っていない模様だ2

 

米国の協力が得られなかったとしても日本単独で介入を行うことは可能だが、過去の経験が示している通り、その効果は乏しいだろう3

 

1 日本のLNG調達のうち、およそ7割が原油価格に連動する形で値決めがなされる長期契約と目される。

2 日米財務相会談で協調介入について協議したとする一部報道に対して、鈴木財務大臣は「報道があったことは承知しているが、その報道は事実に反する」と発言(4月26日ロイター報道)。

3 詳細は、拙稿「円買い為替介入の可能性を考える~過去の振り返りと今後のハードル」(Weeklyエコノミスト・レター2022-04-06)をご参照下さい。

 

円安ドル高の持続性は米・ドルを巡る情勢次第

このように、今後も日本・円サイドで積極的な円買い材料は現れそうにない。むしろ、貿易赤字が続く以上、実需の円売りも続くことになるうえ、主要国の中で突出して金融緩和継続姿勢が強いことに着目した円売りが出る恐れもある。従って、円安ドル高基調が収まるためには、米国・ドルサイドでドル売り材料が顕在化する必要がある。

 

具体的には、(1)米国のインフレが抑制に向かうことでFRBによる利上げ加速観測が後退するケースや、(2)米国の景気減速懸念が台頭するケースが挙げられる。(2)に関しては、特に米国の10年国債利回りが2年国債利回りを下回る「逆イールド」が発生すると台頭しやすい。これまで、逆イールドが発生したしばらく後に実際に景気後退に陥ったことが多かったためだ。

 

 

 

FRBが急ピッチの引き締めを続ける以上、いずれは米国のインフレが抑制に向かったり、景気減速懸念が台頭したりする可能性が高いと見ているが、当面そうした事態は見込みづらい。

 

米国の消費者物価上昇率は直近3月時点で前年比8.5%と極めて高い水準に達しており、上昇に歯止めがかかっていない。現在も中国で続く都市封鎖が供給制約を悪化させ、物価上昇圧力になる可能性もある。また、今後物価上昇率が多少低下したとしても、ある程度続かなければ、2%の物価目標との乖離は大して埋まらず、FRBは速いペースでの金融引き締めを続けるだろう。高インフレが続く以上、市場では米利上げ加速観測が燻り、ドル高圧力になりやすい。

 

 

また、最近にかけて公表されている消費や雇用関連などの米国経済指標は総じて底堅く、にわかに景気減速懸念が大きく台頭するとは想定しづらい。

 

米10年国債利回りが2年国債利回りを下回る「逆イールド」は4月初旬に発生したものの、すぐさま順イールド状態に戻っており、今後も、6月から開始されるQTが長期国債の需給を緩和させることで、10年国債利回りの下支えになる可能性がある。

 

 

(しばらくは円安が進む可能性大、秋口からは反転か)

従って、今後夏場までは円安ドル高がさらに進むと予想している。2~3ヵ月のうちに、一時的に1ドル135円に達する可能性が高いと見ている。

 

その後、秋になるとドル安圧力が高まり、緩やかな円高ドル安基調に転じると予想している。FRBは今後数会合にわたり0.5%の利上げを検討する方針を示していることから、この頃には政策金利が2%台半ばとみられる中立金利にかなり接近してくる。中立金利を超える水準への利上げが間近となることで、先々の景気減速リスクが意識されやすくなるだろう。

 

また、この頃には、コロナ禍に端を発する供給制約の緩和や一部利上げ効果もあって米国の物価上昇率の鈍化傾向が見えてくることもドルの抑制材料になると見ている。

 

さらに、この頃には、11月に控える米中間選挙において与党民主党が敗北し、米国の政治が停滞するリスクが意識されやすくなることもドルの抑制材料になる可能性が高い。もともと、中間選挙は与党にとって不利な展開になりやすいうえ、世論調査での支持率も足元で低迷している4

 

米国経済が年内に後退にまで陥る可能性は低いうえ、円買い材料が見当たらない状況が続くことから大幅に円高が進むことは想定しづらいが、夏場に一時135円に達したドル円は年末にかけて1ドル130円程度まで下落すると予想している。

 

以上がメインシナリオとなるが、ウクライナやコロナの情勢、世界的な供給制約問題などの不確実性は高く、その影響を受ける米国の景気・物価の先行き不透明感も強いため、ドル円も幅を持って見ておきたい。米経済が予想外に好調に推移したり、インフレが鎮静に向かわなかったりすることで円安の時間帯が長引いたり、さらなる利上げ観測によって1ドル135円を超えて円安ドル高が進み、140円に達したりする可能性も排除できない。

 

4 キニピアック大学の調査(4月27日公表)によれば、下院について「本日投票するとした場合の」民主党の支持率は40%で共和党の44%を下回っている。上院についても、民主党の支持率は42%と共和党の43%を若干下回る。

 

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ニッセイ基礎研究所 上席エコノミスト

1998年 日本生命保険相互会社入社
2009年 ニッセイ基礎研究所へ

著者紹介

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年5月6日に公開したレポートを転載したものです。

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