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肥満は脂肪肝リスクを上げ、脂肪肝は肥満体質を作る
脂肪組織は生きていくためにある程度は必要なものですが、過剰に体内に蓄積することで体の中でいろいろな悪影響が出てきます。悪影響の一つとして太りやすくなるということがあります。キーワードは「インスリン抵抗性」です。
インスリン抵抗性とは、簡単にいうと全身でインスリンの効き具合が鈍くなる状態のことです。インスリン抵抗性はメタボの人でも起こり得ますが、脂肪肝でも起こります。肥大化した脂肪細胞が、悪玉のアディポサイトカインという物質を血液中に分泌させることで、インスリン抵抗性が生じます。ちなみに過剰なストレスや生活リズムの乱れも、インスリン抵抗性の原因になります。
健康な人の体では食事をして炭水化物のブドウ糖が吸収されると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、肝臓に運ばれた糖の量を減らしたり、血液中の糖を肝臓に取り込んだりして、血液中の糖の量(血糖値)が適切になるようにコントロールしています。
しかしインスリンの効きが悪くなると、肝臓内の糖の量が増えて中性脂肪がより多く作られるようになり、血糖値が上昇します。
下がらない血糖値を下げようと、体はより多くのインスリンを必要とするようになり、高インスリン血症という状態になっていきます。インスリンには脂肪を合成する酵素を活性化する作用があるため、インスリンがたくさん分泌されるということは、それだけ脂肪が合成されやすいということになります。
つまり脂肪肝があるとインスリン抵抗性が進行してしまう→肥満体質になる→さらに脂肪肝が進む、という悪循環に陥ってしまうことになります。この負の連鎖から脱出するには、やはり食生活の改善をし活動的に過ごし肥満の解消に努めること、規則正しい生活や十分な睡眠をとることが重要になってきます。
とはいえ生活習慣は急に変えられるものではありません。日常的に過食や運動不足にならないようにし、体重増や脂肪肝に気を付けるということが、何よりも大切なことです。
なお本人がいくら努力しても遺伝的に太りやすい体質の人がいるのも事実です。そうしたケースは、医療の力で治療する方法もあります。ダイエットがうまくいかない場合には、かかりつけ医に相談してみるのも一つの方法です。
アジアは「肥満でない人のNAFLD」の有病率が高い
肥満でない人のNAFLDは、世界的に見てアジアでの有病率が高くなっています。事実、日本人の場合には正常体重でも肝脂肪の蓄積が見られる人がいます。肥満でない人(BMI25kg/m2未満)のNAFLD有病率は18.4%という報告があります。
同じ生活をしていても太りやすい人とそうでない人がいるように、肝臓への脂肪のたまりやすさも体質によって変わってきます。最近の研究では、脂肪肝になりやすい遺伝的素因として「PNPLA3」などの遺伝子の型が関係していることがわかってきました。この遺伝子型を持つ人が比較的多いアジア人では、肥満でなくとも脂肪肝になる割合が多くここで順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターが行った研究を取り上げます。
アジア人のなかには非肥満者でも生活習慣病になる人が多く存在します。なぜならアジア人は皮下脂肪に脂肪を十分に貯蔵できず、そのため脂肪細胞がすぐに容量オーバーとなってしまうのです。そして、遊離脂肪酸(中性脂肪が分解されてできる)として血液にあふれ出す「リピッドスピルオーバー」が起こり、内臓脂肪とともに肝臓や筋肉などの本来溜まるはずのない場所の異所性脂肪が溜まりやすいといわれています。
そして異所性脂肪がたまると、脂肪細胞自体が毒性をもつようになり、血糖値を低下させるインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が生じます。
これまで生活習慣病の背景には、内臓脂肪の蓄積があるといわれてきました。しかし非肥満の日本人男性では、内臓脂肪蓄積よりも脂肪肝のほうがより強くインスリン抵抗性を生じさせやすいことが明らかとなりました。
「太ってもいないし、内臓脂肪の蓄積を指摘されたことはない、でも脂肪肝がある」という場合には要注意ということになります。
NAFLDのうち、単純性脂肪肝(NAFL)であれば、生活習慣の改善で健康な状態に戻るので大きな問題にはなりません。しかしどのような場合にNAFLのままでとどまり、どのような場合に肝硬変や肝がんを発症するリスクのあるNASHに進行していくのかについては、まだはっきりとは解明されていません。誰であっても、NAFLDを警戒しておくに越したことはないといえるでしょう(※)。
※学校法人 順天堂「非肥満者では内臓脂肪の蓄積よりも脂肪肝が筋肉の代謝障害と強く関連する」
川本 徹
みなと芝クリニック 院長
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