政府も「年金13万円時代」を想定している
「財政検証というのがもうひとつよく理解できないんですけど。詳しく教えてもらえますか。」
森永先生「公的年金については5年に1度「財政検証」が行われているんだ。これは、人口の増減や経済状況を考慮して、年金保険料の収入がどれくらいあるか、それによってどのくらいの年金給付ができるかを検証するものだけどね。」
「…。」
森永先生「直近では2019年に行われたんだけど、そこでは将来の年金給付額について、6つのパターンが示されている。物価上昇率や賃金上昇率などを変えて計算しているんだけど、最も悲観的に考えたのがケースⅥなんだ(図表3参照)。」
「所得代替率って書いてありますけど、これは何ですか。」
森永先生「所得代替率は、年金の受取開始時点(65歳)で年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示すものだね。たとえば、所得代替率が50%であれば、そのときの現役世代の手取り収入の50%を年金として受け取れるということになるね。」
■年金保険料と国庫負担で賄えるのは所得代替率38~36%
「ケースⅥでも所得代替率は50%になっていますね。」
森永先生「ケースⅣからケースⅥでも所得代替率50%を維持するようになっているけど、問題は横のカッコ書きなんだ。ケースⅥの場合、38~36%になっているよね。これが年金保険料と国庫負担で賄うことができる実際の水準なんだ。」
「先生はケースⅥを想定しているんですね。」
森永先生「経済も成長せず、高齢者の労働力率も上がらないという最も悲観的なケースがケースⅥになるんだけど、私はこのケースが一番現実に近いと思うんだよね。」
「ケースⅥの場合、年金額はどうなるんですか。」
森永先生「現在の厚生年金の所得代替率は61.5%でモデル年金は月22万円だから、単純計算で、36%に下がると仮定すると、いまから31年後の2052年には、夫婦2人のモデル年金は月額12万9000円ということだね。」
「まさに、年金13万円時代ですね。」
森永先生「ちなみに、ケースⅠでも18万6000円だね。」
■モデル年金額とは?
厚生年金のモデル年金額は月額22万円といいますが、このモデル年金額とはどんなものでしょうか。図表4は日本年金機構が示している「令和3年4月分からの年金額」。厚生年金の欄が月額22万0496円となっていますが、これがモデル年金です。平均的な収入で、夫が40年間就業し、妻が専業主婦の夫婦2人の年金額を計算したものです。平均的な収入とは、賞与を含む月額換算で43.9万円(標準報酬月額)です。
ちなみに厚生年金受給者の平均年金月額は2020年で14万6145円となっています(図表5)。また、国民年金(老齢年金・25年以上)の平均年金月額が5万6252円となっているため、モデル世帯の夫婦2人が実際にもらっている平均年金月額は、20万2397円となります。