迅速な国境越えを妨げる「煩雑な通関手続き」
経済回廊はまだ、つながったばかりの状態だ。問題だらけといえる。最大の障壁は、山岳部の貧弱な道路インフラだろう。ベトナムとラオスの国境地帯、ラオスはメコン河沿い以外のほぼすべての地域、そしてミャンマー・・・。まだまだ手つかずの場所も多いのだ。輸送用のトラックがどこでも安定して大量に走れる国は、いまのところタイとマレーシア、シンガポールだけだ。
また通関の際の手続きの簡略化もまだまだこれからだ。せっかく道路がつながり、AECによる一体化が進んでいるのだが、国境越えに手間がかかっている。
それでも段階的に、旅客や車両、貨物など国境越えをする窓口の一本化をすること=シングル・ウインドウ制度と、積荷の輸出入に関する検査を、輸出国と輸入国が共同してひとつの施設で行うこと=シングル・ストップ制度の整備が進められている。迅速な国境越えができれば、陸路輸送の利点はさらに増していくだろう。税関のワンストップ化はインドシナを緊密化していく。
また国境を越えた車両の相互乗り入れに関しても、現在は国境を接した2国間のみだ。例えばタイのトラックはラオスに入れても、その先のベトナムには入れない。乗り換えが必要なのだ。相互乗り入れをGMS圏全体にまで拡大させれば、経済回廊はさらに活性化するだろう。
人と資本の集中が格差を広げる要因にも・・・
問題はまだまだある。ラオス、カンボジア、ミャンマー、ベトナムの後発国では、削減する関税のため、どこかで歳入を調整する必要がある。日本でいう消費税などの増税が見込まれているのだ。これが消費を落ち込ませないか。
また、メコン諸国の地政学的な中心部であり、大きな港と巨大な工場群を有する先行国タイに、結局人も資本も集中し、格差が広がるのではないかという懸念もある。
AECによって国境を越えて労働力を確保できるというが、例えばすでにタイ国内では、膨大な数のミャンマー人、カンボジア人の労働者がおり、地域住民との軋轢を抱えているところも多い。
緩やかに少しずつ変わっていく「メコン諸国」
多くの難題はありながらも、とりあえず回廊がつながったことは大きな出来事だ。20年以上前の荒廃したメコン圏からは、考えられない進歩だといえる。
AECは発足したが、それで急激な変化があるというわけではない。このときのために各国は何年も前から準備をし、関税はすでに段階的に撤廃されてきている。今後もメコンの流れのように、緩やかに少しずつ変わっていくだろう。それは長い目で見れば、大きな変化として映るはずだ。
この項ではメコン諸国の経済回廊と国境地帯に注目し、日系企業に関わりのある工業団地や港などを紹介していく。