手間がかかる「国境が接していない国」への入国
東西回廊の「難所」ラオスの山越えダナンを起点として西に伸びる全長1450キロに及ぶ東西経済回廊は、ベトナムから国境を越えてラオス・サワンナケートに至り、メコン河を渡ってタイに入る。さらに西進してミャンマー、南に転じればバンコクへと通じる便利な回廊だ。
しかしまだ開発途上、道路がつながって間もない。とりわけベトナムからラオス国内のかけての山岳部では「あまり利用されていない」のが実態である。
ハノイとバンコクを結ぶルートはこの東西経済回廊のほか、海運ルートがある。海路だと8日前後かかるところを、東西経済回廊なら所要4日前後で走破できるので、時間短縮効果は確かに高い。
しかし、陸路はコストが高い。またメコン4か国間(ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ)での取り決めによって、その国のナンバーのまま隣国に積み替えなしにトラックで入国できるようにはなっているが、それは国境を接する2国間同士のみ。例えばベトナムのトラックは、直接国境を接していないタイには入れないのだ。一度は積み替えが必要となる。
両国と国境を接しているラオスのトラックであれば、ベトナムからラオス経由で、タイまで一気通貫に走れる。しかし、ダナンやハノイ周辺と、タイを結ぶルートを使わなければならないほどの貨物は、いまのところ極めて少ないのである。
道路には鍋を埋め込んだような大きな穴が・・・
その理由は、陸路利用は海運より高コストであること、タイ経済が不調であること、ダナンやハノイ周辺とタイとの間にサプライチェーンが構築されていないこと、東西経済回廊の道路は毎年雨季に傷み乾季に補修することを繰り返しているが、常に鍋を埋め込んだような大きな穴がそこここに口を開けている区間が何か所かあること・・・などだ。
道路上の大きな穴は、近くの鉱山から搬出される岩石の輸送車両の過積載が主な原因と思われる。そうした区間以外の道路は走行車両が極めて少ないので、快調に走れるのだが、コンテナ車にとってはその劣悪な状態の場所を通過することが、積荷にとって致命的である。
このルートは台地の上の平坦な道路で、周囲にはどこまでも田園風景が広がる。時たま托鉢する僧侶とすれ違うような、いかにもラオスといったのどかな風景が続く。東西の経済を結ぶ高速輸送路という理想とは、まだまだ遠い。
ベトナム・ラオス間で進む一元的な国境越え
東西経済回廊のボトルネックとなっている、デーンサワン〜サワンナケートのラオス国道9号線。ラオス側もその重要性を確認しており、多額の資金を投入している。また日本のODA(政府開発援助)およびADB(アジア開発銀行)による整備も行なわれてきたが、抜本的な解決には至っていない。そこでJICA(国際協力機構)による修復が2015年中も実施されている。
また、この回廊上にあるベトナム・ラオス国境は、アセアンのなかでもはじめて、実験的にではあるがCBTA(越境交通協定)を結んだ場所。国境を越えて人やモノが行き来する手続きの簡略化・円滑化を進めていくものである。
越境の検査を両国が共同で行えば、輸送にかかる時間は短縮される。通関書類やそれを扱う窓口が一元化されれば、より迅速な陸送ができる。これを「シングルストップ」「シングルウインドウ」という。アセアン共同体発足に向け、体制も法律も異なる隣国同士が経済回廊でつながるならば、必須の制度といえる。
東西経済回廊のベトナム側ラオバオと、ラオス側デーンサワンは、そのモデルケースとして2005年から先行して実施されてきた。国境エリアにCCA(共通検査エリア)を設け、両国の税関、イミグレーション、検疫関連の各職員が集まって、一気に検査していくのだ。
また日本の電子通関システムをもとにした新しい通関システムも導入、手続きの簡素化が進んでいる。現状では工業用品の輸出入がまだ少ない東西経済回廊だが、メコン圏でも早くから注目されてきたこの国境での取り組みは、将来的に実を結んでいくかもしれない。
また道路の破損の一因でもあった鉱山関連の輸送トラックだが、これもまた逆に見ればラオス経済を後押しする存在。国道9号線上にあるセポン鉱山、ビエンチャン北郊にあるプービア鉱山など、近年ラオスは鉱山の開発が盛んになっており、金や銀、ボーキサイトはじめ、世界有数の鉱床であることが明らかになりつつある。
まだまだ未整備とはいえ、10〜20年前に比べれば道路網がいちおうは地方まで伸びつつあることによって、鉱山の調査や採掘も可能になったのだ。今後は大型車の走行や、雨季にも耐えられる道路インフラの整備が課題になってくるだろう。