経済見通しは大幅下方修正
<ロシアによるウクライナ侵攻が主因>
■国際通貨基金(IMF)は、19日、最新の世界経済見通しを発表しました。今回は「戦争は世界の回復を後退させる」としており、ロシアによるウクライナ侵攻が世界経済の成長を大幅に減速させること、物価上昇に大きな影響を与えることを指摘しました。
■IMFは2022年の世界の成長率を前年比+3.6%、1月時点の予想から0.8ポイントの大幅下方修正としました。これはロシアによるウクライナ侵攻と新型コロナウイルスの感染拡大による中国のロックダウンを受けたものです。
■2022年の先進国の成長率は同+3.3%と0.6ポイントの下方修正となりました。米国は0.3ポイントの下方修正です。ユーロ圏では、ロシアからのエネルギー依存度が高いドイツが大きめの下方修正となりました。
■先進国の中で唯一経済見通しが上方修正された国はオーストラリアです。コロナによる行動制限が解除される中で、経済再開の流れが続く見通しです。
■一方、新興・発展途上国も大きく下方修正となりました。世界経済への影響が大きい中国が0.4ポイントの下方修正となりました。こうした中、ブラジルは経済成長率は低いものの、0.5ポイントの上方修正となりました。
■続く2023年は先進国の経済成長がさらに低下する一方、中国の成長が回復することで、世界経済の成長率は維持される見通しとなりました。
消費者物価上昇率は上方修正
<新興国・発展途上国では高止まる見通し>
■2022年の先進国の消費者物価上昇率は前年比+5.7%と1月時点の予想よりも上方修正となりました。ただし、2023年には同+2.5%と落ち着きを取り戻す見通しです。
■一方、2022年の新興・発展途上国の消費者物価上昇率は同+8.7%と、1月時点の予想よりも大幅な上方修正となりました。続く2023年も同+6.5%と、新興・発展途上国は高い上昇率が続くと予想されました。資源価格の高騰を背景とした物価上昇局面は、新興国においてより長期間続く見通しです。
中国経済、供給制約と物価上昇に引き続き留意
■今回のIMFの世界経済見通しは、足元のウクライナ紛争が他地域に拡大しないこと、ロシアに対する更なる制裁措置にエネルギー分野が加わらないこと、パンデミックの健康・経済への影響が2022年中に軽減することを想定しています。また、今回の予想は非常に不確実性が高いことをIMFも指摘しています。今後、世界経済の成長を阻害する要因としては、①ウクライナ情勢の一段の悪化、②ロシアへの制裁措置のさらなる強化、③中国のロックダウンの長期化、④より毒性の高い新型コロナウイルスの出現とパンデミックの再燃、などが想定されます。
■物価見通しにおいても不確実は高いと思われます。戦争に起因する需給バランスの悪化や商品価格等のさらなる高騰は、物価やインフレ期待の上昇や高止まりにつながり、いずれ賃金上昇にもつながる可能性があります。さらに、ウクライナ情勢の緊迫化によるエネルギー・食品価格の高騰が社会的な緊張を高める可能性もあります。
■こうした中、中国経済は2023年の世界経済の回復を担う中心的な役割を期待されており、改めて注目度が高まりそうです。中国のゼロコロナ政策が長期化すれば、個人消費が低迷し、中国の経済成長の足かせとなるリスクがあります。また、サプライチェーンの機能不全も想定され、原材料や部材の不足と生産の減少といった悪循環が再び起きれば、物価上昇の高進と高止まりの要因となる可能性もあるだけに、引き続き留意が必要です。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『IMFの「世界経済見通し」は大幅下方修正…中国経済、供給制約と物価上昇に引き続き留意【専門家が解説】』を参照)。
(2022年4月20日)
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