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「肝臓」は生きていく上で不可欠な臓器
右上腹部にある肝臓はヒトの体で最も大きい臓器です。2500億個もの細胞が集まり、体重のおよそ50分の1、大人で1000〜1500gの重さがあります。
肝臓の機能は多岐にわたり、500以上あるともいわれます。主な働きは栄養素の代謝と貯蔵、分解・解毒作用、胆汁の合成、免疫を調整する機能の4つです。
肝臓は体内に取り込まれた物質を化学的に変える“化学工場”としての役割をもちます。食べ物の多くはそのままでは栄養として体に吸収されず肝臓が何千という酵素を使い、化学変化を起こして吸収されやすい形に変えてくれているのです。
例えば食事で摂取した糖質は腸で吸収され肝臓へ送られます。肝臓ではその糖質(ブドウ糖)をグリコーゲンに変えて蓄えておき、必要なときにエネルギーとして供給します。
肝臓はアルコールやニコチン、薬剤など、体内で毒となるものを分解・解毒して体の外に排出する働きもしています。アルコールや薬剤などを過剰に摂取すると、肝臓の解毒作用が追いつかなくなり肝臓に大きな負担をかけてしまいます。
酵素やアルブミンなど体に必要なタンパク質を合成したり、脂肪の消化を助ける胆汁を作ったりするのも肝臓の大事な役目です。また肝臓は健康を維持するうえで重要な免疫細胞が働く場所でもあります。
もう一つ肝臓の特徴として忘れてはならないのが、非常に我慢強い臓器であることです。ヒトの臓器のなかでも高い再生能力をもっていて、健康な肝臓なら80〜85%を切り取られても再生することができ、働き続けるといわれています。
このように多彩な機能を持つ肝臓は消化器のなかでも非常に重要な臓器で、これがなければ私たちは生きてはいけません。まさに“肝心要の臓器”といえるでしょう。
いくら再生能力の高い肝臓でも、脂肪肝を放置すると…
肝臓は“沈黙の臓器”とも呼ばれます。例えば「だるさ・疲労感」は肝機能異常の代表的な症状ですが、誰もが気づくわけではありません。気づかないうちに症状が進行します。黄疸などはっきり分かる症状が現れたときにはかなり肝臓病が悪化し、完治が難しい状態になる場合もあります。
脂肪肝でも長年放置していると最悪の場合肝硬変に陥り、血中にアンモニアが増加して意識障害を引き起こす肝性脳症や、食道・胃静脈瘤、腹水(お腹に水が溜まる状態)を合併する肝不全という状態に陥ることがあります。肝臓が悪くなる、肝臓が壊れることの末路です。いくら高い再生力をもつ肝臓でも再生力を超える障害が生じると、元には戻れなくなってしまうということです。
ただし脂肪肝や肝炎と診断されても、早期に対策や治療に取り組むことで改善する可能性があります。ウイルス性肝炎ならば、抗ウイルス治療法を早期に始めることにより治癒の可能性もあります。だからこそ私たちは日頃から肝臓をいたわり、肝臓が病気にならないように注意を向けておくことが大切です。
■見逃されがちだが…肝臓に異常があるときの「症状」
肝臓の異常の、代表的な自覚症状がいくつかあります。
●黄疸
血液中のビリルビンという黄色い物質が増えると、皮膚や白目が黄色くなります。肝機能障害でビリルビンが胆汁に排泄されなくなり、血液中のビリルビン濃度が上がることで黄疸が現れます。
●かゆみ
肝臓の働きが悪くなると胆汁の流れが停滞し血流に入っていきます。この血液中の胆汁が、かゆみを引き起こすことがあります。特にかゆみが出やすいのは「原発性胆汁性胆管炎(PBC)」で、かゆみを訴える患者の割合は7割に上るとの報告もあります。
●疲れ・吐き気・食欲低下
肝臓の障害が進行すると、エネルギー産生や解毒作用が低下してくることから、だるさや食欲不振などが現れます。
脂肪肝ができるまで
■脂肪肝には「アルコールによるもの、アルコール以外によるもの」がある
脂肪肝の主な原因としてアルコール性(慢性的な過剰飲酒)と、非アルコール性(肥満・糖尿病・脂質異常症)の大きく2つに分けられます。そのほかに、わずかですが薬の副作用が原因で脂肪肝になることもあります。割合としては、脂肪肝の原因のほぼ半分を肥満が占め、次に糖尿病が18%、アルコールに起因するものが18%となっています。肥満は、やはり突出したリスクです。
■アルコール性脂肪肝の発症メカニズム
以前、日本肝臓学会で1日に30gのアルコールを毎日飲み続けると、わずか2週間で肝臓に脂肪が溜まるというのを聞いたことがあります。そんな短期間でも脂肪肝になり得るのかと、とても驚いたのを覚えています。
私たちがお酒を飲むとき、体の中に入ったアルコールのほとんどは肝臓で解毒され、体の外へ排出されています。習慣的に多量にお酒を飲み続けることでアルコールの分解に肝臓が酷使され、脂肪の分解が追いつかなくなり脂肪肝になります。通常は無症状で、初期の段階なら禁酒により改善していきます。
アルコール性肝障害には5つの段階があります。第一の段階がアルコール性脂肪肝です。第二段階としてアルコール性肝炎、第三段階にアルコール性肝線維症、第四段階としてアルコール性肝硬変、そして第五段階でアルコール性肝がんへと進んでいきます。
アルコール代謝能力には個人差があり、診断基準の飲酒量に満たなくても肝障害をきたす場合があります。例えば肥満者では、1日平均純エタノール60g/日以上の過剰飲酒に満たなくても、アルコール性肝障害を発症するケースがあります。純エタノール60gとは、およそビール中瓶3本の飲酒量です。女性では、1日平均純エタノール40g/日程度でもアルコール性肝障害を起こし得るとされていますので、くれぐれも飲み過ぎには注意が必要です。
アルコールを過剰に常飲している人の脂肪性肝炎は「ASH」と診断され、NASHからは除外されます。目安として1日ビール中瓶1本以下なら、NASHとして診断されます。
アルコール性肝炎のケースでは、肝臓の腫れとともに右上腹部に痛みが出現し、黄疸も見られ、尿の色が紅茶色になります。
<非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の発症メカニズム>
お酒が原因でない非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、飽食の時代に増えてきた脂肪肝であり、肥満や糖尿病などのメタボ関連疾患が主たる原因となります。
もともと肝臓は腸で消化・吸収された栄養素を取り込んで分解したり新たな物質を合成したりして、全身に供給する役割を持っています。そしてその過程で、脂質や糖質から中性脂肪を作り、その一部をエネルギー源として肝細胞(倉庫)の中に貯めることができます。通常は、肝臓が作る中性脂肪の15%ぐらいが肝臓に回っているとされ、それ以外は、血液中に放出されたり、皮下脂肪や内臓脂肪に蓄えられたりします。
ところが食事でとったカロリーが消費カロリーを上回ると、肝臓で中性脂肪がたくさん作られ過ぎてしまい、皮下脂肪や内臓脂肪といった場所に脂肪がたまっていきます。肝臓の中にも、異所性脂肪として蓄積していきます。やがて脂肪たっぷりの脂肪肝になるという仕組みです。血液中の中性脂肪が多い状態が続けば、動脈硬化の発症リスクも高まります。つまり脂肪肝は、メタボや生活習慣病を合併しやすいのです。
ただ脂肪のたまりやすさにも個人差があり、肥満であるかどうかや遺伝要因も関係します。
腹腔鏡で肝臓の画像を見ると、健康な肝臓は褐色をしています。一方で脂肪肝になった肝臓はあん肝のような乳白色をしています。
これは余談ですが、脂肪肝になった肝臓は、非常にもろいのが特徴です。肝臓の外科手術をする際、脂肪肝は電気メスで出血しやすく、健康な肝臓に比べると手術がしにくいといえます。手術をする際に合併症のリスクが高くなるため、やはり脂肪は溜め過ぎないほうがいいのです。
一方で非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)では症状があまりはっきりせず、あっても倦怠感程度なので発見が遅れがちです。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、超音波検査やCT検査などの画像検査で脂肪肝の所見があって、他の肝臓の病気がないことを確認すれば診断することができます。それが単純性脂肪肝(NAFL)なのか、予後の悪いタイプのNASHなのかは、肝臓の組織を調べる肝生検をしないと確実に診断することができません。
そのためNASHは、診断時には2~28%がすでに肝硬変に進行して手遅れとなってしまっている、大変怖い病気といえます。NASHが肝硬変に進行して初めて黄疸や足のむくみ、腹水によるお腹の張りなどが現れることがあります。
自覚症状はほとんどなかったのに、検査を受けてみたら肝硬変だと言われるショックは計り知れません。「お酒も飲まなかったのに、なぜ私が肝硬変になるのですか…」と、最初のうちは受け止めきれない人が多くいます。NASHの有病率は3~5%と数字を見ただけではさほど多くないように感じます。ですが本人がまったく気づいていないうちに肝臓が線維化し肝硬変へと至るという点では、油断できない病気です。
アルコール性脂肪肝でも単純性脂肪肝でも対策としては、分かった段階で食事や運動療法を行うことが重要です。肝臓病は、原因はなんであれ肝炎→肝硬変→肝がんへと進行していくことがあります。この進行を止めるためにも、NASHになる前の脂肪肝の段階での早期発見をし、適切な対策や治療へつなげていくことが理想です(※)。
※ E M Brunt 2001;21(1):3-16. Nonalcoholic steatohepatitis: definition and pathology
川本 徹
みなと芝クリニック 院長
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