遺言によって自宅を相続できるはずだったが・・・
被相続人Aさんの自筆証書遺言が見つかったのは、葬儀から10日ほど過ぎたときのことです。その遺言書には、Aさんが所有している建物の詳細が記載されており、これを同居していた子であるBさんに相続させる、と書かれていました。
ところが記載があったのは建物についてだけで、土地については何も記されていませんでした。遺言書にあった通り、BさんはAさんの所有していた建物(家)を移転登記して所有することができましたが、土地については相続することができない状況が続いています。
Bさんは、いつか誰かが、「この土地については自分の持ち分がある。売ってお金にしてほしい」と言いだすのでは? と考えると、不安で目の前が暗くなるそうです。
ミスを防ぐためには公正証書遺言の作成のほうが無難
自筆証書遺言にありがちな誤りを犯しているケースです。自筆証書遺言は、家庭裁判所による「検認」という手続きを経る必要があります。これは、遺言書の偽造や変造を防止するための措置で、家庭裁判所で遺言書を開封し、作成の日付や加筆訂正の箇所、署名などを確認するものです。
このケースでは、検認の過程において、特に異議を述べる者もなく問題はありませんでした。ところが、ひとつ、重大な欠陥があったのです。
土地について、何も記載されていなかったのです。つまり、この遺言書を合理的に解釈すれば、Bさんが単独で相続することができるのは、建物だけであり、記載のない土地については法定相続人が共有するというかたちになってしまうのです。
おそらく被相続人であるAさんは、市販されている自筆証書遺言の書き方のノウハウ本を参考に、遺言書を作成したのでしょう。そして建物について、完璧な遺言を作ったことで安心してしまい、土地にまでは頭が回らなかったのではないでしょうか。
単純に「自宅はBに相続させる」としておけば、何の問題もなくBさんが「土地+建物」の両方を相続することができたものを、Aさんには誠に失礼ながら、手の込んだことをしようとしたために、ミスを招く結果となってしまいました。
自筆証書遺言では、しばしばこのようなミスが起こります。公正証書遺言であれば、公証人が遺言者の意思を確認しながら作成していくため、「この内容では、建物はBさんの所有になりますが、土地は他の兄弟たちとの共有になってしまいます。それでも大丈夫ですか?」といったチェック機能が働きます。また、「建物だけでなく、土地の登記簿謄本も出してください」と必ず言うはずなので、このような誤りは起こりようがありません。
ただし、公証人とのやり取りは一般の人にとってはなじみがない上に、言葉が専門的で分かりにくいなど、やりにくい部分があるかもしれません。資料の不備などの問題が生じた場合、二度手間、三度手間になる可能性もあります。
そのような場合に備えて、公証人とのやり取りを弁護士に依頼することをお勧めします。多くの法律事務所では、初回の法律相談を格安な価格設定にしたり、無料にしたりしています。弁護士との相性もあるでしょうから、まずは気軽に法律相談に訪れ、公正証書遺言を作るメリットや、弁護士に支払う報酬を尋ねてみるといいのではないでしょうか。
会ってみて、支払うべき報酬の面も含めて「この弁護士なら任せてもいい」と思えたら、任せてしまった方がいいでしょう。たとえ多少のお金がかかったとしても、公証役場に行って自力で全てを完了させることの労力を考えると、弁護士に依頼した方がいいのではないかと筆者は思います。