経済的好機をうかがう中国
中国内の経済学者からは、ウクライナ問題を、中ロ貿易を拡大させ、また人民元の国際化をさらに進める好機と捉えるべきとの見方が展開されている(参考文献3)。
それによれば、第一に、ロシアはこれまでエネルギー輸出先として欧州に大きく依存してきたが(“西向能源戦略”)、制裁によって、輸出市場の多様化を通じてリスクを軽減しようとする”東向能源戦略”に転換する可能性がある。その場合、特にエネルギー需要が高く、市場規模も大きい中国とのエネルギー協力を深化させようとすることになる。
第二に、制裁によってロシアと欧米との経済関係が冷え込めば、例えば中国企業のロシアでの投資機会が増え、またロシアも中国から工業製品・消費財等の輸入を増加させることになる。第三は通貨の問題だ。2010年11月、人民元とルーブルの直接取引が解禁、11年6月、両国中央銀行は、貿易決済に人民元とルーブルを広範に使用できるよう合意した。
しかし実際には、ルーブルによる決済が中心で(特に辺境貿易、例えば、黒龍江付近の辺境貿易では、決済の99.6%はルーブル)、また人民元とルーブルの為替相場の計算はなお米ドルを介して行われ、米ドルの影響を大きく受ける状況にある。制裁に伴い、為替相場がルーブル安に動く可能性が高く、中国企業は輸出代金としてルーブルを受け取ることに消極的になり、ロシアの企業や消費者も購買力の下がったルーブルでは中国からの輸入が難しくなる。
その意味で、貿易決済で、中期的になお先高観のある人民元の使用を拡大する好機となる。そのため政策的にも、人民元とルーブルの相互交換協定を構築強化し、また両通貨の直接取引市場を拡大していく必要があるというわけだ。
本問題を契機として、ロシアからのエネルギー供給が増加することは、一義的には、エネルギーの安定的供給先を確保したい中国、また少なくとも短期的には欧米に替わる輸出先を確保したいロシア双方にとって歓迎すべきことだ。
元来中国には、エネルギーを中国に供給するだけの貿易構造にロシア側が不満・警戒感を持っていることが、両国貿易の拡大を阻害しているとの認識があり、本問題を契機に、ロシア側からエネルギー輸出市場としての中国に接近してくることは、中国にとって願ってもないことだ。
石油についてはすでに2013年初、東シベリア石油パイプラインが開通しているが、天然ガスについても、昨年習訪ロの際、「2018年から、中国石油天然気集団公司CNPC)が年間380億m2の供給を受ける」という一応の合意をみている。この合意の実現・拡大に向けて、ガスパイプラインの敷設や2006年以来滞っている価格交渉が動き出す可能性がある。
人民元については、2010年頃から、ベトナム、ラオス、ミャンマーと国境を接する雲南省や広西壮(チワン)族自治区の国境付近で人民元圏化が進んでおり、特に12年以降、昆明やミャンマーとの国境に近い瑞麗を、人民元決済による辺境貿易拡大のための金融センターと位置付ける等、中国当局の“南飛”“向南”(南に向かう)人民元国際化戦略が注目されてきた(参考文献5)。
本問題を契機にロシアとの貿易をより円滑にすることが両国の共通認識になれば、中国の“北飛”人民元戦略(こうした表現はまだ中国内では見当たらないが)を、ロシアも受け入れるということだろう。中国からすれば、その南側と北側の双方で、人民元の国際化に弾みがつくことになる。
以上を要するに、本問題を巡って中国は、政治的には明確な主張は避けてロー・プロファイルを保ちつつ、その背後で、経済面ではこの好機をどのように生かせるかをうかがっていると見るべきだろう。
(参考文献)
1.‘Back on the Silk Road: China’s Version of a Rebalance to Asia,’ Xie Tao, Global Asia Vol. 9, Number 1, A Journal of the East Asia Foundation, Spring 2014
2.‘Ukraine Tensions Flag Risks for Beijing’s Importers,’ China Economic Review, April 15, 2014
3.‘欧美对俄制裁利好中俄贸易’熊爱宗,财经观察,2014年4月
4. ‘中国から見た対ロシア関係’金森俊樹、外国為替貿易研究会「国際金融」2013年5月
5. ‘ミャンマー情勢を注視する中国’同上、2012年11月
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