新築から2~3年で「床が腐った」…数百件もの事件
「中途半端な断熱・気密性能は、家の耐久性維持によくない」と示す象徴的な出来事として、「ナミダタケ事件」があります。
昭和48年のオイルショックをきっかけに北海道の新築住宅で相次いで起こった出来事です。新築してわずか2~3年の住宅の土台や床が腐って落ちるという被害が相次ぎ、札幌だけでも数百件の被害があったといわれています。
灯油価格が急騰した当時。北海道では、暖房光熱費を抑えるために住宅の断熱化への関心が高まり、壁・床・天井に断熱材を入れるようになりました。
ところが、高断熱化のノウハウが十分ではなく、ただ断熱材を詰め込めばよいという「中途半端な高断熱化」をしてしまっていました。また気密性能や通気層という考え方が当時はなかったため、水蒸気が大量に壁などに侵入し、壁内や床下で結露を発生させていたのです。
そのため、壁や床の木材が常に湿った状態に保たれてしまい、「ナミダタケ」という腐朽菌が大量に繁殖してしまいました。「ナミダタケ」がキノコのように大きく増殖して木材を腐らせた結果、床が抜け落ちる被害が相次いだのです。
これは、高気密・高断熱化の知見が確立されていなかったために起こった悲劇です。この事件をきっかけに、「湿った空気は住宅の耐久性維持の天敵である」「断熱には気密性能や通気層が重要である」ということがわかり、高気密高断熱の工法が考えられるようになりました。
ただ、この残念な事件の記憶によって、今でも「高気密・高断熱化は、単純に日本の気候風土に合わない」「住宅の長寿命化に反するものだ」と考えている方が多いのです。
隙間だらけの家でも「クレームにできない」ワケ
「ナミダタケ事件」をきっかけに、壁内の水蒸気が外に排出されるよう、壁に通気層を設けることが一般的になりました。
一方気密性能については、残念ながら、日本の住宅における取り組みはまだまだ遅れています。
欧米の国々では気密性能の基準が定められています。我が国では、平成11年基準というかなり緩い省エネ基準があることにはあったのですが、この緩い基準ですら、その後の省エネ基準の改正により不思議なことになくなってしまいました([図表6])。
気密性能について公的な基準がないうえに、その確保にはある程度のノウハウや手間暇がかかることから、十分な気密性能を有している住宅会社はごく一部に限られます。
つまり「なんとなく」でハウスメーカーや工務店を選んでしまうと、まともな気密性能の確保されていない可能性が極めて高いのです。
そして、出来上がった住宅が「隙間だらけで夏暑く冬寒い、冷暖房光熱費が無駄にかかってしまう家」であっても、住宅性能に必要な気密性能が公的に定められていないのですから、クレームをつけることもできません。
「最近の家は、さすがに気密性能の低い家なんてないのでは?」なんて考えていたら、大きな間違いです。当社には、築1年以内の住宅をもつ方からも「家がすきま風だらけで寒いのでなんとかなりませんか?」というご相談が複数寄せられています。
それどころか、「高気密・高断熱の注文住宅を発注したのに、まったく気密が取れていない…」という事例も少なくありません。
つまり施主がきちんと知識をつけないと、とても残念な性能の家が建ってしまう可能性が高いのが、現在の日本の住宅マーケットなのです。後悔のない住まいづくりのため、ぜひある程度の知識をつけて、適切な工務店・ハウスメーカーを選択してください。
高橋 彰
住まいるサポート株式会社 代表取締役