図解と人生戦略が融合した二つの出会い
私はこれまで、図解を使って理解し、企画し、伝達する図解コミュニケーション、図解して考える図解思考の研究を続けてきました。その過程で、自分の人生を棚卸しし、未来を展望するための図解として生み出したのが人生鳥瞰図です。
47歳で大学教授に転身する前のビジネスマン時代、私が本業以外に力を入れていたのが、30歳のとき入会した「知的生産の技術」研究会(知研)での活動でした。
知研は、日本を代表する民族学者であり、「京大式カード」の生みの親でもある梅棹忠夫先生の代表的著作『知的生産の技術』に触発され、梅棹先生を顧問に迎えて発足したビジネスパーソンを中心とした勉強会で、各界の第一人者を講師に招いては、毎回200人ほど会員が集まって講義を傾聴していました。
私はやがてスタッフの一人として、講演の企画や書籍の出版活動に携わるようになりますが、その活動の中で、優れた講師の多くは、頭の中によく整理された図があるのではないかと思うようになりました。
こういった経験が、知らず知らずのうちに私の頭の中で発酵し、整理され、体系づけられて、次第に図解という手法に収斂されていき、私のキャリアにとって重要な役割を果たすことになりました。
同じころ、もう一つの大きな出会いがありました。当時40代で日本IBMの常務取締役をしていた井上富雄さんが書いた『ライフワークの見つけ方』(1978年)という本です。
井上さんは、日本IBMに入社して間もなくの25歳で大病を得て休職され、退院直後に、仕事、学習、資金、家族、趣味の5つの分野で年度別の目標を記した「人生25年計画表」を作成します。
そして、毎年年初に目標を達成するために必要な実行項目を書き込み、翌年にはそれを振り返って計画に修正を加えながら着実に実行し続け、実際、30歳のときの「人生計画書」に沿って、47歳で退職し、経営コンサルタントに転身しました。
この本は、サラリーマンが自分の人生戦略を立てるという点、著者の考える人生の成功が、会社でトップに上りつめることではなく、会社の仕事を通じて身につけた経験や能力と、自らの学習で身につけた知見とを合わせて、主体的にキャリア形成を行うことを目標としたという点で、多くのサラリーマンの共感を呼び、ベストセラーとなりました。
私もやってみようと、30歳の時に、まず「一生の計画表」をつくりました。以来、毎年正月にその年の計画表をつくり、年末の休みに、どれくらいクリアできたかを自己採点し、年が明ければ、また新年の計画表づくりを、楽しみながらずっと続けてきました。
これを眺めると、1年でクリアすることはできなくても、その後何年か継続することで自然にクリアできたことが実に多いことに気づかされます。
人生鳥瞰図を作ることができたのも、40年前、30歳の時のこの二つの出会いが端緒になっていると感じます。