コロナ禍で以前のような働き方ができなくなり、手に職をつけようと資格取得を目指している方も少なくありません。そんななか、14の鍼灸整骨院を展開し、年間19万人もの施術を行う株式会社NOMOKOTSU代表の野本一也氏は「数多く存在するように見える鍼灸・整骨業界への就職は、実は容易なことではない」といいます。本記事では、野本氏が「鍼灸・整骨業界のいま」を語ります。

独立開業を目指す鍼灸師・柔道整復師の減少続くワケ

私が新人の時代には鍼灸師や柔道整復師のほぼ全員が、独立開業を目標として資格を取得していました。

 

開業には1000万円から3000万円といった資金が必要となりますが、開業にさえこぎつければ、すぐにペイできました。潰れるような鍼灸整骨院もほとんどありませんでした。だからこそ、独立開業が王道のキャリアプランだったのです。

 

しかし現在は、状況がまったく違っています。競争激化の結果、開業した個人治療院の約8割が3年以内に廃業するような時代です。3年踏みとどまったとしても値下げ合戦から抜け出すことができず、土日返上で働いて量をこなすことでなんとか経営を続けているような治療院が多くあります。

 

そんな現実を前に、独立開業を志す人の数は当然、大きく減っています。筆者の感覚だと、全体の2割にも満たないと思います。

キャリアプランの変化で、高まる「職場選びの重要性」

筆者は今、14の鍼灸整骨院を経営していますが、毎年入社して来る新入社員に対し、必ず聞くようにしているのが「就職先を選ぶ際に最も重視した点」についてです。その結果、近年で最も多い答えが「場所」であり、そのあとには「休み」「給料」「将来性」と続きます。

 

こうした回答からは「自分の居心地のいい場所で、ずっと暮らしたい」という安定志向が垣間見えます。

 

「技術」や「経営ノウハウ」といった、独立開業を見据えたような回答が返ってくるのはまれで、キャリアプランも独立開業より、1つの治療院に勤め上げるのを理想とする人が圧倒的な多数派となっています。その価値観を否定するつもりはまったくありません。独立リスクの高まりを考えれば、極めて自然な話です。

 

ただ、開業して経営を続けていくのが難しいということは、一生働き続けられるような治療院の数がごく限られているという意味にもなります。

 

就職先の選び方を間違えば、一生どころか1年も経たずに、次の職場を探すことになります。キャリアプランの変化とともに、職場選びの重要性はどんどん高まっているのです。

個人にも「マネジメント力」が求められる時代に

1つの治療院に勤め続け、組織でキャリアを築いていくうえで欠かせないのが、マネジメント力です。「独立開業を考えていないなら、マネジメント力はいらない」そう思う人もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。

 

確かに、「給料は安くていい、一生現場勤めで構わない」というなら、マネジメント力はほとんど必要ありません。また、日本で10本の指に入るような圧倒的な技術力を身につけたスペシャリストになれたなら、マネジメントをする立場にならずとも、しっかり給料を取っていけると思います。

 

ただ、ほとんどの人は「キャリアに応じた給料が欲しい」と考えています。

 

スペシャリストになれるのも、ごく限られた人だけです。一般的な施術家が、独立を目指さずに給料を上げていくなら、組織内で責任ある立場につかねばなりません。

 

キャリア形成の在り方は会社の規模などにより異なりますが、昇進するほどマネジメント力が求められるようになる点は共通しているはずです。組織に長く勤めたいと考えるからこそ、就職後に磨くべき能力は技術だけではないということを理解しておかねばなりません。

 

 

野本 一也

株式会社NOMOKOTSU

代表

 

 

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※本連載は、野本一也氏による『鍼灸・整骨業界を目指すキミへ』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

鍼灸・整骨業界を目指すキミへ

鍼灸・整骨業界を目指すキミへ

野本 一也

幻冬舎メディアコンサルティング

開業した個人治療院の約8割は3年以内に廃業するといわれる一方で、慢性的な人材不足により有資格の新卒者は「空前の売り手市場」となっています。しかし、安易に就職先を選んでしまうと施術家としてのキャリア構築を失敗しかね…

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