コロナ禍で以前のような働き方ができなくなり、手に職をつけようと資格取得を目指している方も少なくありません。そんななか、14の鍼灸整骨院を展開し、年間19万人もの施術を行う株式会社NOMOKOTSU代表の野本一也氏は「数多く存在するように見える鍼灸・整骨業界への就職は、実は容易なことではない」といいます。本記事では、野本氏が「鍼灸・整骨業界のいま」を語ります。

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爆発的増加続く…「規制緩和」で飽和した日本の治療院

鍼灸・整骨業界は、この10年で様変わりしました。全国の整骨院の数を例にとると2008年は3万4839軒だったところから、2018年には5万77軒まで増加し、10年の間に1・4倍以上となっています(厚生労働省『保健・衛生行政業務報告2016』より)。

 

鍼灸院などについても同様の傾向が見て取れ、国家資格保有者の営む治療院の総数は一気に増加してきました。もはやコンビニエンスストアの倍以上の数に膨れ上がり、確実に飽和しつつあります。そうして爆発的に増えたきっかけの一つは、資格取得の登竜門となる専門学校の数と関係があります。

 

私の新人時代には、柔道整復師の国家資格を取るための専門学校は、全国に10数軒しかありませんでした。国の方針としても、有資格者の数をある程度コントロールしておきたかったようで、認可までのハードルがかなり高かったのだと思います。しかし、それを不服とした人々が国に対して裁判を起こし、結果的に1998年には厚生労働省が柔道整復師専門学校の規制緩和を実施しました。

 

その後、専門学校の数は一気に増えていき、2006年には104校に、10年も経たず、10倍近くになったのです。学校の数がそれだけの伸びを見せたというのは、すなわち施術家を目指す人の数がぐっと増えたということにほかなりません。

 

2000年代前半においては、鍼灸・接骨業界は成長の過程にありました。鍼灸院や接骨院の数も少なく商圏が広く取れたため、ビジネスとして有望でした。私も含め多くの施術家は独立を前提として実務経験を積み、20代後半から30代前半に自分の治療院を出すというのを目指していました。

 

専門学校の増加で施術やその意義に興味をもつ人たちが増え、社会に貢献するということはまさに喜ばしいことでした。しかし一方で安易に開業する者も増えたため(有資格者の数が増え、彼ら彼女らがどんどん独立していった)、現在の治療院の乱立につながっているという側面があります。

無資格で開業できる「サロン」が流行した結果…

さらに過去を紐解けば、高度経済成長期からバブル期にかけての鍼灸・接骨業界はブルーオーシャンであり、ライバルの数が極端に少なかったため、潰れるようなことはほぼありませんでした。開業までこぎつければ、どんな人でもそれなりに羽振りのよい生活ができました。

 

その後バブルがはじけ、前述のとおり規制緩和で専門学校が増えたのと時を同じくして、クイックマッサージやリフレクソロジーを手掛ける「リラクゼーションサロン」が流行しだしました。

 

国家資格がなくとも開業できるリラクゼーションサロンの流行は、業界への参入障壁をぐっと下げました。そして異業種からの参入が相次いだ結果、市場は次第にレッドオーシャンへと向かっていったのです。

 

レッドオーシャンでは、生存競争が激化し、それに敗れた事業者がどんどん淘汰されていきます。資本やマンパワーのない個人院や零細企業が窮地に立たされ、規模に勝る企業がそれらを飲み込むように成長を続けることで、寡占が進みます。

 

例えば、地域での売上1位、2位の店で、その地域全体の売上の8割を独占し、残りの店が潰れていくというのが、典型的な寡占といえます。

 

市場が飽和し、淘汰と寡占が進むのは、あらゆる業種で起き得る、資本主義の摂理です。鍼灸・整骨業界では現在まさに、そんな摂理の荒波が押し寄せているところで、今後10年で業界の在り方ががらりと変わるのは間違いないでしょう。

 

鍼灸・整骨業界は今、大きな転換期を迎えているのです。

 

次ページ生き残るために必要なことは

※本連載は、野本一也氏による『鍼灸・整骨業界を目指すキミへ』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

鍼灸・整骨業界を目指すキミへ

鍼灸・整骨業界を目指すキミへ

野本 一也

幻冬舎メディアコンサルティング

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