「オミクロン型変異株や原油価格上昇などのリスク要因あっても、景気失速の可能性は小さい見込み。笑点の視聴率など、1月後半に自粛ムードを感じるデータもあるが、大相撲の懸賞本数など身近なデータでは景気回復を示唆するものが多い。北京冬季オリンピックの日本勢の活躍などに期待」
ESPフォーキャスト調査、リスクあっても20年5月を景気の谷とする景気拡張は22年から23年にかけ続く見込み
2020年5月を景気の谷とする景気拡張局面は、エコノミストのコンセンサス調査であるESPフォーキャスト調査(1月調査)でみると、22年から23年にかけて続くとみられる。エコノミスト全員の総意を示す「総合景気判断指数」を見ると、21年10~12月期は景気判断の分岐点にあたる50を大幅に上回る93.1。その後22年は前半の2四半期が90台、後半の2四半期が80台、23年に入っても調査対象の7~9月期まで3四半期とも80台で、景気判断の分岐点である50を大幅に上回って推移する見込みだ。
こうした見方は、21年10月以調査以降ほぼ変わらない(図表1)。新型コロナウイルスのオミクロン型変異株や原油価格上昇などのリスク要因を考慮したうえでの回答である。オミクロン型変異株は感染力が強いが重症化しにくいと言われていることから、リスクではあるものの、景気失速の可能性は小さいというのがコンセンサスと思われる。
ESPフォーキャスト調査・特別調査で、「コロナ感染」は景気リスク1位の座に返り咲く。「原油価格上昇」は3位タイ
ESPフォーキャスト調査では随時、特別調査が実施される。20年9月から奇数月に、「景気のリスク」をフォーキャスターが3つまで挙げている。21年9月調査までずっと「景気のリスク」の1位は「新型コロナウイルス感染状況」だった。新型コロナウイルス新規感染者が急減した状況を反映して、21年11月調査で「新型コロナウイルス感染状況」が「中国景気の悪化」に抜かれ2位となり、一時「景気のリスク」1位の座を明け渡したが、オミクロン型変異株が急激に猛威を振るうようになった22年1月調査で再び1位に返り咲いた(図表2)。
22年1月調査の3位は「原油価格上昇」で、こちらは「米国景気の悪化」と同順位だった。WHOは21年11月26日、南アフリカなどで確認された新型コロナウイルスの新たな変異株を「懸念される変異株」に指定し、オミクロン型と命名した。特徴として、感染力がデルタ型よりも強いが、重症化リスクは小さいと言われている。
WTIは、2014年10月7日の88.85ドル/バレル以来7年3ヵ月ぶりの高値を記録した
2021年12月の米国・消費者物価指数(CPI)は前年同月比+7.0%となった。9月+5.4%、10月+6.2%、11月+6.8%と月を追うごとに伸び率が高まり、1982年6月以来39年半ぶりの高水準となった。FRBが重視しているPCEデフレーターの12月の前年同月比+5.8%、こちらは1982年7月以来の高水準となった。今年はFRBが政策金利の引き上げなどの金融引き締め政策を採ると予想され、物価動向がその背景としてマーケットで考えられている。FRBはテーパリングを3月に終了し、3月に最初の利上げを実施するだろうというのが最近のコンセンサスになっている。
様々な要因が重なって、足元の物価上昇を招いている。まず、エネルギー価格の上昇が挙げられよう。世界的な経済再開を受けてエネルギー需要が急回復する一方、原油などの供給の回復が緩やかなものにとどまっていることで、需給バランスがタイトになった。
また、世界的に脱炭素化の動きが強まる中、21年は自然のいたずらで欧州では風力発電が思うようにならず、結果として天然ガスへの需要が増えたことも影響している。1月26日にはWTIの終値が87.35ドル/バレルと、2014年10月7日の88.85ドル/バレル以来7年3ヵ月半ぶりの高値を記録した(図表3)。ウクライナ情勢の緊迫化など地政学リスクの高まりが材料視されている。
次に、経済再開に伴う需要回復でのサービスを中心とした価格持ち直しの動きがある一方、半導体などの供給制約の影響があり、需給面から価格が上昇している。住宅価格の上昇に伴い、帰属家賃の上昇がみられている。人手不足が深刻化している業種では労働コスト面からのインフレ圧力も高まっている。
電力、都市ガス、食料品といった物価の値上げが、デフレの期間が長かった日本でも生じている。日本では全国消費者物価指数・総合の前年同月比は21年12月で+0.8%で、携帯電話料金の引き下げ効果が剥落する22年4月には一時的に+1%台後半に上昇する可能性がある。
米国の消費者物価指数。比較対象時の水準に影響される前年比。前年同月比鈍化前の3月に初回の利上げか
しばらく、米国の消費者物価指数の前年同月比は高水準が続きそうだ。エネルギー価格の前年比は春ごろまで高めに推移しよう。最近の原油価格WTIは70~80ドル/バレル台であるが、2021年で70ドル/バレル台に上昇したのは6月8日が最初で、5月までは原油価格WTIは60ドル/バレル台以下であった。エネルギーの前年比は比較対象とする時期の水準に影響される。米・消費者物価指数の前月比は21年1月+0.3%、2月+0.4%と落ち着いていた。このことからみて、目先の消費者物価指数の前年同月比は上昇しやすいだろう。
21年6月の米・消費者物価指数は前月比+0.9%(前月比年率+11.3%)と08年6月以来13年ぶりの高い前月比であった。経済活動や観光が一斉に再開したことに伴う値上がりがみられた。半導体不足の影響が深刻で新車の在庫不足などで自動車関連を中心に価格の上昇圧力が強かった。経済再開と夏の行楽シーズンが重なったことで航空料金が大幅に上昇するなど、サービス価格が値上がりした。当時の雇用統計から労働コスト面からの物価上昇圧力も影響したとみられる。
21年4~6月の米国の消費者物価の前月比は、4月+0.8%、5月+0.6%、6月+0.9%と、かなり高い伸び率であった。一方、直近12月の前月比は+0.5%(+0.47%)である。前月比年率は+5.7%と結構高い伸び率である。22年の4月~6月の前月比が、仮に21年12月と同じ伸び率で推移するなら、3ヵ月で1%程度前年同月比が鈍化することになる。
当初6月に最初の利上げがあると言われていたが、最近では3月という見方が有力になっている。総合的に見て利上げが必要な環境にあるとみられるが、6月だと消費者物価指数の前年同月比が鈍化してしまい、鈍化の程度によっては最初の利上げに水を差されることを回避する意味で、初回利上げは3月に実施するという面もありそうだ。
21年で景気ウォッチャー調査現状判断DIは、緊急事態宣言発令月の平均39.3、非発令月の平均53.0と違いが
21年では1月8日~3月21日、4月25日~6月20日、7月12日~9月30日の合計3度(対象地域は様々)の緊急事態宣言が発令された。実質GDPや景気ウォッチャー調査の現状判断DIなどは、発令の度に影響を受け変動が生じ、ジグザグと推移した(図表5)。
景気ウォッチャー調査の現状判断DI(季節調整値:但し22年1月分発表時に過去に遡って修正予定)でみると、調査期間に緊急事態宣言が発令されていた7ヵ月の平均は39.3、一方、発令されていなかった5ヵ月の平均は53.0と違いが明白である。緊急事態宣言が発令時でも、20年の第1回目(4月7日~5月25日)のように、2000年の統計開始以来最低の数字である9.4を記録したように極度に落ち込むことはなく、20年5月を谷とする緩やかな景気拡張局面が続いたと思われる。
ちなみに現在は、まん延防止等重点措置が1月9日~2月20日の予定で発令されている。昨年発令された第1回は4月5日~9月30日。緊急事態宣言または、まん延防止等重点措置が発令されていた8ヵ月の平均は40.3、発令されていなかった4ヵ月の平均は54.3とこちらで見ても違いが明白である。
現状判断DI21年12月に16年ぶり2番目の高水準。先行き判断DIオミクロン型変異株への懸念から足元50割れ
21年9月の景気ウォッチャー調査では、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着き、ワクチン接種が順調に進み、緊急事態宣言の全面解除が決まり経済正常化への期待が高まったことで、2~3ヵ月先の見通しを示す先行き判断DIは56.6と12.9ポイント上昇、3ヵ月ぶりに景況判断の分岐点の50を超えた。10月は57.5と0.9ポイントの上昇幅にとどまったが、57.5は13年11月(57.6)以来歴代2番目の高水準である。
一方、現状判断DIは、8月の34.7を底とする上昇だが9月では42.1だった。しかし、10月では、55.5と前月から13.4ポイントと大幅に改善し50超になった。現状判断DIが先行き判断DIの改善に追いついたかたちだ。55.5は14年1月(55.7)以来当時として歴代5番目の高水準だった。飲食関連、百貨店、旅行・交通関連、レジャー施設関連などの業種の現状判断DIが大幅に改善した。
現状判断DIは11月56.3、12月56.4まで緩やかに上昇した。4ヵ月連続の改善で05年12月(57.5)に次ぐ過去2番目の高水準になった。一方10月に57.5と歴代2番目の高水準だった先行き判断DIは11月で53.4に低下した。11月調査は、新型コロナウイルスのオミクロン型変異株の影響もいち早く把握した調査になった。新たな不安材料が出現したため、12月では49.4と4ヵ月ぶりに50.0を割り込んだ。
景気ウォッチャー調査では「新型コロナウイルス」という言葉が20年1月に初めて登場した。毎月のコメント数の平均は1,800人前後だが、これまでの最多は、現状判断998人、先行き判断1,085人と過半数超えで、どちらも20年3月に記録した。21年での最多は、現状判断は8月の497人、先行き判断は12月の840人だった。新型コロナウイルス関連DIを作成する(図表6)と、20年1年間の平均は現状判断DIが30.2、先行き判断DIは33.0と低水準だった。
しかし、21年1年間の平均は現状判断DIが44.1、先行き判断DIは50.2と高まった。新型コロナウイルスが景況感の足を引っ張りにくくなったことを示唆しよう。直近12月の現状判断DIは62.1と50.0を大きく上回っているが、しかし先行き判断DIはオミクロン型変異株への懸念から48.0と4ヵ月ぶりに50.0を下回った。
21年自殺者数は前年比▲1.2%で2年ぶり減少。相関係数0.91の完全失業率は21年2.8%で前年と同じ
完全失業率は21年平均では2.8%と20年と同じになった。また、21年12月は2.7%である。21年で最も高かった月は5月の3.0%で一番低かったのは3月の2.6%であった。コロナ禍でも、様々な対策の効果で、落ち着いた数字となっている。完全失業率と相関が高い自殺者数は、21年前半は前年同月比増加傾向だったが、後半は減少傾向だった。警察庁発表の21年合計速報値は、20,830人前年比は▲1.2%の減少である。21年12月速報値の自殺者数1,545人で、前年同月比▲8.8%の減少だ。警察庁のデータがある期間の1978年から2021年までの自殺者数と完全失業率の相関係数は0.91となった(図表7)。
18年平昌大会、羽生結弦選手と宇野昌磨選手が金・銀獲得直後の営業日に、日経平均は前営業日比で428円高
北京冬季オリンピックは2月4日に開会式が行われる。注目度が高いオリンピックで人気選手が活躍し、日本勢のメダルラッシュが続くなどすると、国民のマインドが明るくなり、景気や株価にも少なからぬ影響を与えることがある。冬季五輪が開催される2月は、例年株価に動きが少ない月だ。1980年から2021年までの42年間のうち、上昇したのは22回、下落したのは20回で、平均の変化率は+0.2%である。42年間の前月比の標準偏差は5.6%であるが、それに比べ2月だけの標準偏差は4.9%であり、2月は値動きに乏しい。
しかし、長野冬季オリンピックのように、ジャンプ団体の涙の金メダルなど10個と歴代2位のメダル獲得と、日本代表の注目選手が活躍すると、98年2月の株価は97年から続く金融危機の時期でも、前月比+1.2%上昇した。一方、日本代表のメダルがフィギュアスケート女子の荒川静香選手の金メダルの僅か1個と振るわなかった06年トリノ冬季オリンピックでは、2月の株価は前月末比で444円安(▲2.7%)と低迷した。しかし、詳しくみると、期待された日本選手がメダルを獲得できず、日経平均株価は2月20日に1月末から1,212円安となったが、フィギュアスケート女子が始まると切り返し、2月末の日経平均株価は20日から768円高となった。
前回の18年平昌冬季オリンピックの日本代表は、冬季オリンピックでは史上最多となる13個のメダルを獲得した。大会期間中で、特に日経平均株価が大きく動いたのは2月19日(月)で、前営業日比で+428円と上昇している。直前の週末には、フィギュアスケート男子の羽生結弦選手と宇野昌磨選手が金・銀を獲得、スピードスケート女子500メートルで小平奈緒選手が金メダルを獲得したことが影響していると思われる。さらに、翌週末の2月24日(土)には、カーリング女子の銅メダルを獲得や、スピードスケート女子マススタートで高木菜那選手が初の金メダルに輝いた。その翌営業日となる2月26日(月)の日経平均株価は+260円の上昇を記録した。
いずれも週末で観戦する人や注目する人が多いタイミングで注目選手が活躍したことで、人々のマインドを押し上げた可能性があるようだ。18年の2月末の日経平均株価の前月差は▲1,030円安の低下だったが、平昌五輪期間中は+508円高と上昇した。
今回の北京冬季オリンピックでも3大会連続金メダルの期待がかかる羽生結弦選手を筆頭に、株価や景気を押し上げるほどの、日本代表選手の活躍が期待される。
箱根駅伝と笑点の視聴率からみて、1月は月初の外出は多かったが、後半には自粛モードになったようだ
全国の新型コロナウイルスの感染者数は21年12月30日で514人と10月16日の506人以来の500人超になったが、年末年始はまだ落ち着いていた(NHK/HPのデータによる)。正月三が日の感染者数は、元日534人、2日553人、3日779人だった。明治神宮や成田山の初詣の人出の人数はコロナ禍であることに配慮し、2年連続で公表されなかった。青山学院大学が新記録で優勝した今年の箱根駅伝の復路のテレビ視聴率(関東地区、ビデオリサーチ)をみると28.4%で、昨年の33.7%を下回った(図表9)。3日の日は駅伝を見ずに外出した人も多かったのかもしれない。
だが、全国のコロナ感染者数は1月4日に1,265人と千人を超えた後に急増し12日に13,242人18日にこれまでの最高だった昨年8月20日の25,992人を上回る32,181人となった。1月29日には84,951人まで急増している。1月後半になると人々の行動も自粛モードになってきたようだ。
笑点の視聴率(関東地区、ビデオリサーチ)は16.0%と大相撲千秋楽と重なった1月23日までの週で、その他娯楽番組の中で第1位になった。翌週1月30日までの週でも17.7%で第1位である。夕方に外出して消費行動をする人の割合が減少傾向にあることを示唆しているのかもしれない。
競馬売上、11年連続増加に向け、幸先の良いスタート。大相撲初場所懸賞・前年同場所比4場所連続増加に
しかし、コロナ禍でも順調に推移している身近なデータは多い。競馬売上高の足元のデータを確認しよう。JRA(日本中央競馬会)の売得金は21年で前年比+3.6%と10年連続の増加になった。22年は1月30日時点までの年初からの累計前年比は+6.8%の増加になっている(図表10)。11年連続増加に向け、幸先の良いスタートをきっている。
大相撲の初場所の懸賞は15日間で1,676本、前年同場所比+32.0%と4場所連続で増加となった(図表11)。但し、2年前は1,835本だったので前々年比▲8.7%とまだ、コロナ禍前の本数には届かなかった。場所前の申し込みは1,889本であったが、人気大関・貴景勝が怪我で序盤から休場してしまったことが痛かった。千秋楽結びでは関脇・御嶽海が横綱・照ノ富士を破って優勝した。3場所の合計で33勝目となり、江戸時代の「雷電」以来227年ぶりの長野県出身の大関となることが確定した、千秋楽結びの一番に懸かった懸賞は55本だった。21年の千秋楽結びの一番の最多懸賞本数だった秋場所は49本(照ノ富士 vs. 正代)を更新した。
昨年の東京の桜の開花日史上最速タイ。景気拡張局面継続。今年は3月15日というウエザーニュースの予報も
一昨年20年の東京の桜の開花日は3月14日とこれまで最も早かった3月16日より2日早く咲いた。昨年21年も3月14日と連続して観測史上最速タイになった。1953年から実施されている気象庁の生物観測調査の69年間で、東京の桜の開花が3月20日以前の早い年は昨年までで10回あり、コロナ禍でお花見をすることが出来なかった20年を除いて、景気は後退局面になったことはなかった(図表12)。
日本には四季があり、厳しい冬の期間が過ぎて淡いピンク色の桜の花を見ることで明るい気分になる人々も多いだろう。さらに、早く春が来ると春物が売れるし、お花見の宴会で人々の気分が高揚するからだ。しかし、一昨年、昨年と新型コロナウイルスの感染拡大を予防するために、お花見の宴会が自粛された。ウエザーニュースの第1回開花予想によると、東京の開花予想日は3月15日だ。そのころにオミクロン型変異株の感染状況がどうなっているのか要注視だ。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『新型コロナ「再拡大」でも、景気拡張局面は「2023年まで続く」見込み』を参照)。
宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
理事・チーフエコノミスト