夏目漱石ですら10万部に満たなかったのに…
実は『学問のすゝめ』は、福沢の弟子にあたる小幡篤次郎との共著として売り出された本です。福沢個人の取り分はどれほどだったかはわからないところもありますが、億単位の収入にはなったのではないでしょうか。そんな資金力があったからこそ、個人で大学を作ってしまおう、という画期的な発想が生まれたのだと感じられます。
ちなみに福沢と同時代を生きた、〝明治の文豪〞の代表格・夏目漱石の生涯実売部数……つまり、漱石が発表したすべての著作が存命中にどれくらいの部数売れていたのかといえば、実は10万部にも満たなかったとされています。
漱石のようないわゆる〝純文学〞作品と、自己啓発モノの走りといえる福沢の『学問のすゝめ』の比較自体がヤボですが、それほどイレギュラーな大ヒットを記録した書物だったと納得いただけるでしょう。やはりお札の〝顔〞になるような人は、金運があるのだろうなどと思ってしまいます。
堀江 宏樹
作家・歴史エッセイスト