1971年、奈良県警による1166件の噓発見器検査の報告
日本の警察では1950年ごろには、噓発見器を犯罪捜査に導入する試みを始めている。そうして皮膚電気反射や呼吸、血圧などを同時に測定できる噓発見器が開発されてきた。
いまでは、質問の作成から検査や実施、犯人か否かの識別までを、各県警にある科学捜査研究所の心理学専門のスタッフが行う。そのための研修を積んだ専門家が行うので、日本の心理学の専門家は、噓発見機を課したあとの結果は精度が高いと考えている。
しかしいまのところ、実際の裁判では、噓発見機の結果には証拠能力が高いとは考えられていない。とりわけ刑事訴訟法の専門家は、噓発見器を認めない傾向があるようだ。いったいなぜか。
1971年の論文だが、奈良県警で行われた1166件の噓発見器検査の報告がある。結果は以下の通りである。
●検査を受けた人が実際に犯人であったケース。検査結果が「犯人である」と出たのが92%。「犯人でない」と出たのが8%である。
●検査を受けた人が犯人でなかったケース。検査結果が「犯人である」と出たのが0.4%。「犯人でない」と出たのが99.6%である。
多くの人は、前者の精度は高いとは考えないが、後者の精度は高いと考えるだろう。心理学者の疋田圭男は、犯人でないにもかかわらず「犯人である」と誤って識別されてしまう例が、きわめて少ないことに注目している。
しかし、日本では刑事訴訟の99.9%が有罪である。つまり刑事事件で検察が「犯人である」と考えた事件の、99.9%は実際に犯人だということになる。冤罪の可能性がないとは言えないが、いまのところ検察が誤る確率は0.1%ということになる(現在の冤罪率)。
心理学者は噓発見器の精度が高いと考えるが、誤差が0.4%あれば、刑事訴訟法の専門家が、その結果を重く見ないのは無理からぬことである。
私自身は大学で心理学を専攻したこともあり、各県警にある、科学捜査研究所の心理学スタッフは、有能でなおかつ誠実に働いている人が多いと考えている。
とは言え、司法の現場で、心理学が軽んじられる傾向があるのは仕方がない部分もある。心理学者は噓発見器の誤差は少ないと考える。一方で司法、とりわけ刑事事件の専門家は誤差が絶対にあってはならぬという立場である。0.1%と0.4%の間には大きな溝があるのだ。
一方で、噓発見器が有用である例を紹介しよう。
会社で誰かの机のなかの現金が盗まれたとする。犯人が外部の者である可能性は少なく、社員かアルバイトの誰かであるとする。同じ職場で働く者同士が、疑心暗鬼になる局面である。また犯人でないのに、自分が犯人かもしれないと思われることに耐えられない人もいる。
こういう場合は噓発見器のおかげで、犯人ではない人を、早い段階で容疑者リストから外すことができる。0.4%しか間違えないのだから、従業員100人以内の会社ならほぼ特定できるということになる。噓発見器にはこういう利点もあり、それを見逃してはならない。
心理学は実験や調査により、「人間にはこういう傾向がある」ことを解き明かす学問である。逆に言うと、傾向以上のことは説明できない。特定の人間の、特定の行動だけで「ズバリ、この人は噓をついている」と断定するわけにはいかないのだ。
竹内 一郎
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