1.概観
【株式】
12月の主要国の株式市場は、概ね上昇しました。米連邦公開市場委員会(FOMC)では、量的緩和の縮小(テーパリング)の加速が決定され、2022年の利上げ見通しが3回となりましたが、オミクロン型への警戒感が後退したことからリスク選好の動きとなり、米国株式市場は月末にかけて上昇しました。欧州の株式市場も、欧州中央銀行(ECB)が金融緩和を徐々に縮小していく方針を示したものの、米国株式市場の上昇を受けて堅調な展開となりました。日本の株式市場もオミクロン型への警戒感が和らいだことから上昇しました。中国株式市場では、米国が人権侵害を理由に一部の中国企業への投資や輸出を禁じると発表したことを受けて香港ハンセン指数が小幅に下落しました。
【債券】
米国の10年国債利回り(長期金利)は、オミクロン型への警戒感が和らいだことや、米連邦準備制度理事会(FRB)が12月のFOMCでテーパリングの加速を決定し、2022年の利上げ見通しを3回としたことで、金融政策の正常化が進むとの見方が強まったことから上昇しました。ECBが理事会で金融緩和を徐々に縮小していく方針を示したことなどから、ドイツの長期金利も上昇しました。日本の長期金利は横ばいでした。
【為替】
オミクロン型への警戒感が和らぎ、投資家のリスク選好姿勢が強まるなか、低リスク通貨とされる円は売られ、主要通貨に対し下落しました。
【商品】
原油価格は、オミクロン型への警戒感が後退したため、原油需要が回復するとの見方が強まったことから、大きく反発しました。
2.景気動向
<現状>
米国の2021年7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.3%となり、個人消費の伸び鈍化や供給制約の影響により減速しました。
欧州(ユーロ圏)の2021年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+3.9%となりました。前期比も2期連続のプラス成長でした。
日本の2021年7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率▲3.6%となりました。緊急事態宣言や供給制約に伴う生産減の影響を受けました。
中国の2021年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.9%となり、コロナ感染対策や不動産規制の強化の影響により回復ペースが鈍化しました。
豪州の2021年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+3.9%となりました。ロックダウンなどの影響を受けて前期比ではマイナス成長となりました。
<見通し>
米国は、供給不足はやや緩和され始めているものの、オミクロン型の感染者が急増することで2022年1-3月期は消費などを中心に若干影響が出ると予想されます。今後は政府の大型インフラ投資や金融政策の展開など、感染拡大の動向も含めて注目されます。
欧州は、感染者が急増していることから2022年初めにかけて景気が一時的に減速すると予想されます。今後は供給制約の緩和とともに、復興基金による欧州全体の投資拡大などの拡張的な財政政策や、金融緩和の継続が景気回復を支援していくと考えられます。
日本は、感染抑制、供給制約の緩和や経済対策が景気を下支えし、2021年度後半以降は景気の回復が見込まれます。オミクロン型の感染拡大への懸念が出始めていますが、景気配慮型の財政・金融政策は維持され、2022年以降は追加経済対策の効果が発現すると期待されます。
中国は、政府が成長率の安定を2022年の最優先課題と強調していることから、構造改革は続くものの急激な改革案は見送られると考えられます。今後も積極的な財政政策や穏健な金融政策は継続され、長期戦略としてはハイテクなどの高付加価値産業の育成を更に加速していくと考えられます。
豪州は、国内の感染者数が急拡大しているものの、出遅れていた労働市場の持ち直しにより経済は回復基調にあると考えられます。政府はロックダウン再導入に否定的であるため、経済活動の回復が見込まれるなか、金融政策の展開、インフレ動向が注目されます。
3.金融政策
<現状>
FRBは、12月14~15日に開催されたFOMCでテーパリングの加速を決め、量的緩和を2022年3月に終了する見通しを示しました。また、FRBは2022年に3回の利上げを見込みました。ECBは12月16日の理事会で、新型コロナウイルスへの危機対応で導入したパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の廃止などを決め、異例の金融緩和を徐々に縮小していく方針を示しました。日銀は12月16~17日に行われた金融政策決定会合で、新型コロナウイルス禍に対応した資金繰り支援策の縮小を決めましたが、大規模な金融緩和策を維持する方針を示しました。
<見通し>
FRBは、米景気が回復し、供給制約や資源価格高から物価が上昇するなか、金融政策正常化に向けてテーパリングを2022年3月に終了し、6月以降年内に3回程度の利上げを実施するとみられます。ただし、雇用回復や金融市場安定のため市場とのきめ細かいコミュニケーションを通じて、金利の急上昇を回避するようにかじ取りを行う見通しです。ECBは、2022年3月にPEPPを終了するものの、従来の量的緩和を増額するなど、緩和的な金融環境維持に向けた政策運営を当面続けるとみられます。日銀は、物価目標の達成が依然として見通せないなか、現行の大規模金融緩和を継続するとみられます。
4.債券
<現状>
米欧の10年国債利回り(長期金利)はオミクロン型への警戒感が和らいだことや金融政策の正常化が進むとの見方から上昇しました。米国の長期金利は、オミクロン型の感染が拡大したことによる経済停滞への警戒感から月初に1.3%台前半まで低下しました。しかし、オミクロン型の重症化リスクは高くないとの研究機関の報告などから警戒感が和らいだことや、FRBが12月のFOMCでテーパリングの加速を決定し、22年の利上げ見通しを3回としたことで、金融政策の正常化が進むとの見方から1.5%台に上昇しました。ドイツの長期金利は、ECBが理事会で異例の金融緩和を徐々に縮小していく方針を示したことなどから、▲0.2%を上回る水準に上昇しました。日本の長期金利は横ばいでした。投資適格社債については、国債と社債の利回り格差が縮小しました。
<見通し>
米国の長期金利は、米景気回復やインフレの高止まりによる利上げ観測から、レンジをやや切り上げる動きを予想します。ただし、他国と比べた相対的な利回りの高さによる投資家の需要や、FRBが金利の急上昇を回避するようにかじ取りを行うとみられることから、緩やかな上昇を想定します。欧州の長期金利も、ECBによる超低金利政策の長期化により大局的には低水準で推移するものの、景気回復やインフレ圧力から緩やかに上昇すると予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、低水準での安定推移が長期化すると予想します。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の12月の1株当たり予想利益(EPS)は227.4で、前年同月比+35.9%(前月同+32.5%)と11ヵ月連続のプラスとなりました。予想EPSの水準は10ヵ月連続で過去最高を更新しました。一方、TOPIXの予想EPSは143.3で、伸び率は同+43.1%(前月同+44.4%)でした。米国株式市場は、14~15日のFOMCでテーパリングの加速が決定され、22年の利上げ見通しが3回となったことから、早期利上げへの警戒感が強まり、中旬にかけて下落しました。しかし、下旬から月末にかけてはオミクロン型の重症化リスクが小さいとの認識が広がったことで上昇基調に転じました。29日にはNYダウ、S&P500種指数が最高値を更新しました。月間ではNYダウが前月比+5.4%、S&P500種指数が同+4.4%、ナスダック総合指数が同+0.7%でした。一方、日本株式市場は、米国株式市場の動きに連れて上昇しましたが、オミクロン型の市中感染が新たに確認されたことなどが重石となり、年末にかけて上値が重くなりました。日経平均株価が前月比+3.5%、TOPIXが同+3.3%でした。
<見通し>
米国では、S&P500種指数採用企業の純利益は21年が前年比+49.7%、22年が同+8.4%の見通しです。(リフィニティブ集計。21年12月31日)。日本では、TOPIX採用企業の純利益は21年が同+56.6%、22年が同+13.7%と、22年も2桁の増益見通しです(FactSet調べ。22年1月4日)。引き続きオミクロン型の感染拡大が懸念されますが、重症化リスクが低いとみられることから株式市場への影響は限定的となりそうです。1月後半以降は、日米ともに、21年10-12月期の決算発表に注目が集まります。日米ともにファンダメンタルズはしっかりしており、株価を下支えすると期待されます。
6.為替
<現状>
オミクロン型への警戒感が和らぎ、リスク選好の動きが強まるなか、低リスク通貨とされる円は主要通貨に対し下落しました。円は対米ドルで、オミクロン型への警戒感から月初に112円台を付けましたが、その後警戒感が和らぎ、米国の株式市場が反発したことや、FRBがFOMCでテーパリングや利上げ見通しを前倒し、米長期金利が上昇したことから、115円台に下落しました。円は対ユーロでは、ECBが理事会で金融緩和を徐々に縮小していく方針を示したことなどから、前月末の127円近辺から131円近辺に下落しました。また、対豪ドルでは、80円台半ばから83円台後半に下落しました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、緩やかな下落を予想します。先行きのFRBの金融政策正常化観測や大規模な財政支出による米景気回復期待が米ドルにプラスに働く一方、2022年央以降は米景気とインフレがピークアウトする見通しであることから、米ドルの上値は抑制されるとみています。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。欧州復興基金による景気回復やインフレ上昇による金融政策正常化観測などからユーロが徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートも緩やかな下落を予想します。当面は中国景気減速が重荷となるものの、世界経済の回復に伴う資源価格の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
7.リート
<現状>
グローバルリート市場(米ドルベース)は大きく上昇しました。前月に高まった新型コロナウイルスのオミクロン型への懸念が和らいだことで、リート市場は上旬に大きく反発しました。その後は各国で予定されていた金融政策決定会合を控えて一進一退の展開となりましたが、中央銀行の金融緩和縮小方針を受けても金利の上昇幅が限定的だったことから月末にかけて再び上昇し、月間では大幅上昇となりました。S&Pグローバルリート指数(米ドルベース)は前月末比+7.1%となりました。円ベースでは同+8.6%となりました。
<見通し>
米国リート市場は、短期的には賃金上昇やエネルギー価格高騰などのテナントのコスト上昇や、利益確定の動きから上値が重い展開を予想します。中長期的には米国経済の回復、低金利政策の継続から上昇を予想します。欧州リート市場は、短期的にはコロナ感染の再拡大を懸念して横ばいの動きを想定します。中長期では景気回復や低金利政策の継続により上昇を想定します。日本リート市場は、新型コロナウイルスの感染抑制を受けた経済再開の動きから上昇すると見ています。アジア・オセアニアリート市場は、シンガポール中心に上昇すると見ています。一方、中国、香港市場は景気減速や政府による規制強化、不動産セクターの債務問題の余波などから短期的には横ばい圏での推移を想定します。
8.まとめ
<債券>
米国の長期金利は、米景気回復やインフレの高止まりによる利上げ観測から、レンジをやや切り上げる動きを予想します。ただし、他国と比べた相対的な利回りの高さによる投資家の需要や、FRBが金利の急上昇を回避するようにかじ取りを行うとみられることから、緩やかな上昇を想定します。欧州の長期金利も、ECBによる超低金利政策の長期化により大局的には低水準で推移するものの、景気回復やインフレ圧力から緩やかに上昇すると予想します。日本の長期金利は、日銀の大規模金融緩和策が継続されるため、低水準での安定推移が長期化すると予想します。
<株式>
米国では、S&P500種指数採用企業の純利益は21年が前年比+49.7%、22年が同+8.4%の見通しです。(リフィニティブ集計。21年12月31日)。日本では、TOPIX採用企業の純利益は21年が同+56.6%、22年が同+13.7%と、22年も2桁の増益見通しです(FactSet調べ。22年1月4日)。引き続きオミクロン型の感染拡大が懸念されますが、重症化リスクが低いとみられることから株式市場への影響は限定的となりそうです。1月後半以降は、日米ともに、21年10-12月期の決算発表に注目が集まります。日米ともにファンダメンタルズはしっかりしており、株価を下支えすると期待されます。
<為替>
円の対米ドルレートは、緩やかな下落を予想します。先行きのFRBの金融政策正常化観測や大規模な財政支出による米景気回復期待が米ドルにプラスに働く一方、2022年央以降は米景気とインフレがピークアウトする見通しであることから、米ドルの上値は抑制されるとみています。円の対ユーロレートは、緩やかな下落を予想します。欧州復興基金による景気回復やインフレ上昇による金融政策正常化観測などからユーロが徐々にレンジを切り上げるとみています。また、円の対豪ドルレートも緩やかな下落を予想します。当面は中国景気減速が重荷となるものの、世界経済の回復に伴う資源価格の堅調推移が豪ドルをサポートするとみています。
<リート>
米国リート市場は、短期的には賃金上昇やエネルギー価格高騰などのテナントのコスト上昇や、利益確定の動きから上値が重い展開を予想します。中長期的には米国経済の回復、低金利政策の継続から上昇を予想します。欧州リート市場は、短期的にはコロナ感染の再拡大を懸念して横ばいの動きを想定します。中長期では景気回復や低金利政策の継続により上昇を想定します。日本リート市場は、新型コロナウイルスの感染抑制を受けた経済再開の動きから上昇すると見ています。アジア・オセアニアリート市場は、シンガポール中心に上昇すると見ています。一方、中国、香港市場は景気減速や政府による規制強化、不動産セクターの債務問題の余波などから短期的には横ばい圏での推移を想定します。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年12月のマーケットの振り返り』を参照)。
(2022年1月5日)