(※写真はイメージです/PIXTA)

贈与税と相続税の一体化が噂される2022年度の税制改正大綱。しかし、富裕層への課税強化が推し進められようとしている兆候は、そればかりではありません。専門家の目から詳しく読み解いていきます。弁護士法人菰田総合法律事務所の菰田泰隆弁護士・税理士、税理士法人アイユーコンサルティングの七島悠介税理士が事例をもとに解説します。

兆候その①相続対策目的の不動産投資に「牽制」の動き

●タワマン節税などの6項否認

生前贈与と併せて実行されることも多い不動産を活用した相続対策にも、ジワジワと国税のメスが入り始めています。

 

不動産を活用した相続税対策とは、相続開始前に借入や手元資金等によりタワマンや賃貸マンションを購入し、相続税の申告においては、時価よりもかなり金額の低い「財産評価基本通達」に定められた評価方法で評価額・税額を計算する手法です。

 

時価と財産評価基本通達での評価額との差額は都市部ほど大きく、不動産を購入するだけで数千万~数億円の財産圧縮効果が出ることも少なくありません。

 

その効果は絶大で、不動産購入前では数百万円~数千万円かかる相続税が不動産購入後に0になったというケースもあります。

 

そして相続税の申告後、相続税対策としての役目を終えたタワマンや賃貸マンションをリスク回避のため売却、借金を返済するというような流れも見受けられます。

 

このような相続税対策のみを目的とした不動産投資については、国税庁も目を光らせており、最近では国税庁の伝家の宝刀「総則6項」と呼ばれる、「財産評価基本通達」によらない評価方式による財産評価(不動産鑑定評価などを用いた時価)によっての相続税申告とすることで相続税の追徴金を課す判例が見受けられるようになってきました。

 

いわば富裕層の相続税対策の目的での不動産投資にも国税が牽制をかけてきているとも言えます。

 

今後も同様の否認事例が出てくるとなると富裕層が不動産を活用した相続税対策を行う際には慎重にならざるを得ません。

兆候②「財産債務調書」の提出義務を負う範囲が広がる

●「財産債務調書」「国外財産債務調書」の提出義務の創設・拡充

財産債務調書・国外財産調書とは、ある一定規模の国内財産や海外財産を保有する富裕層に毎年の確定申告においてその保有財産や債務を記載した書類の提出を義務付ける制度です。

 

財産債務調書や国外財産調書が未提出ないしは虚偽の内容を記載して提出された場合には、過少申告加算税・無申告加算税などのペナルティが重くなる可能性があります。 
本制度の提出対象義務者は以下の通りです。

 

「財産債務調書」「国外財産債務調書」の提出対象義務者

 

★財産債務調書:その年の所得が2,000万円超、かつ、保有資産が3億円以上(有価証券等の場合は1億円以上)

 

★国外財産調書:国外財産が5,000万円超

 

財産債務調書は平成28年1月1日より、国外財産調書については平成26年1月1日より施行されました。

 

国税庁では、財産債務調書や国外財産調書制度を通じて、富裕層が所有する財産を自己申告してもらうことで、個人の財産や債務の把握に努めています。

 

また、令和4年度税制改正大綱において財産債務調書の提出義務者の範囲が拡充される予定となっています。

 

財産債務調書の提出義務者の範囲

 

現行法:その年の所得が2,000万円超、かつ、保有資産が3億円以上(有価証券等の場合は1億円以上)

 

改正案:上記とは別に、保有資産が10億円以上の場合(所得要件の撤廃)

 

なお、改正に伴って、財産債務調書の提出期限が翌年6月30日まで延長される見込みとなっております。

 

このように、所得が低い人でも資産が多額にある富裕層は財産債務調書の提出義務を有することになる見込みです(改正時期は令和5年分以後の確定申告からの見込み)。

 

その他にも海外不動産投資から生じる損失を活用した、節税スキームの封じ込めなど富裕層の節税対策は常に国税庁とイタチごっこを続けています。

 

このような流れであることから、今後財産を隠して課税を逃れる、といったことはより一層困難になっていくことと考えられます。次回は、具体的な対策について解説します。

 

 

菰田 泰隆
弁護士法人菰田総合法律事務所
代表弁護士・社労士・税理士

七島 悠介
税理士法人アイユーコンサルティング
社員税理士 営業統括

 

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