今回は、日本の公的年金制度はいつ、どのように始まったのか、そのあらましを見ていきます。本連載は、明治大学商学部教授の北岡孝義氏の著書、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)中から一部を抜粋し、公的年金の現在とこれからについて考察します。

国会議員や公務員の年金が優遇されている理由

日本の公的年金は、明治時代の官吏や軍人のための恩給が始まりである。公的年金は庶民ではなく、当時の支配層に与えられたわけだ。現在も、国会議員や公務員の年金が一般の国民の年金よりも優遇されているのは、こうした歴史を引き継いでいるといえる。

 

「国民皆年金」の基礎ができたのは戦後であり、1959年4月制定、1961年4月施行の国民年金法からである。

 

実は厚生年金のほうは国民年金より早く発足している。戦時中の1942年6月施行の労働者年金保険法(1944年10月に厚生年金保険法に改称、女性も加入対象として認められる)が、厚生年金の前身である。公務員は、国家公務員の共済年金が1959年10月、地方公務員の共済年金が1962年12月に施行された。

 

国民年金法ができたことによって、自営業者や農林水産業従事者等を対象にした国民年金、会社員の厚生年金、公務員の共済年金の年金制度が整った。これにより、国民はいずれかの年金に加入することとなり、「国民皆年金」が実現したのである。

 

その後、1985年の年金改革で基礎年金が誕生。従来の国民年金を基礎年金として位置づけ、国民すべてが国民年金に加入することが義務づけられた。とくに、今まで公的年金の対象でなかった専業主婦も、国民年金に加入することになった。

 

専業主婦の場合、夫が会社員で厚生年金に加入していれば、年金支払いが免除となる。これは、所得税の配偶者控除と同様に、専業主婦に有利な措置で、時代の変化とともに、いずれ撤廃されるのではないかと思われる。

 

以上のように、自営業者、専業主婦は国民年金の1階建て、会社員は国民年金と厚生年金(公務員は共済年金)の2階建ての今日の公的年金制度が確立した。

先進国で「国民皆年金」なのは日本だけ!?

日本の公的年金発足のあらましは前項の通りだ。では、外国はどうかというと、多くの国で年金制度は日本と異なっている。先進国で年金制度が「国民皆年金」なのは、実は日本だけなのである。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンなどの国では、無業者や自営業者、医師などの高所得者の年金加入は認められていないか任意加入である。

 

そして、どこの国も少子高齢化により公的年金制度の維持に四苦八苦している。日本よりもずっと早く少子高齢化社会となったスウェーデンは、公的年金制度はうまくいかないと見切りをつけ、半ば年金事業から撤退した。正確に言うと、原則、自分の年金は自分で面倒を見る「積立方式」の採用である。要するに、国が「老後の生活は自分で何とかせよ」と突き放したのである。

 

スウェーデンでは、「相互扶助」の賦課方式から、部分的にせよ、「自助」の積立方式へ移行した。そして、高齢で生活できない困窮者に対してのみ、基礎年金で救済する形を取っている。スウェーデンも、「少子高齢化」のもとでは、現役世代が高齢者世代を支える賦課方式は、持続可能な制度ではないと見切りをつけたのだ。

 

少子高齢化社会の日本も、スウェーデンと同じく、2階建ての厚生年金の部分については、現在の「世代間扶養」の精神に基づく賦課方式から、原則、「自助」の精神に基づく積立方式へと移行することもひとつの案だ。

 

国民の老後はそれぞれの「自助」努力に任せ、政府は、真に生活できない高齢者に対してのみ手を差し伸べる。国が保障する年金は、高齢者生活保護の社会保障に限定し、なおかつ、基礎年金は「生活保護の年金」に改正する。そうすれば、必要な年金資金は格段に少なくなるはずだ。そして現在のような、理屈の通らない苦し紛れの政策を取り続ける必要もなくなる。

本連載は、2015年7月21日刊行の書籍『ジェネレーションフリーの社会』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ジェネレーションフリーの社会

ジェネレーションフリーの社会

北岡 孝義

CCCメディアハウス

もう年金には頼れない。では、どうやって暮らしていくか──。現行の年金制度が危機に瀕している日本が目指すべき道は、定年という障壁をなくし、あらたな日本型雇用を創出することだ。さらには、個々人の働くことへの意識改革…

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