今回は、2015年度の年金改訂の内容を見ていきます。※本連載は、明治大学商学部教授の北岡孝義氏の著書、『ジェネレーションフリーの社会』(CCCメディアハウス)中から一部を抜粋し、公的年金の現在とこれからについて考察します。

2015年度の年金は最終的に0.9%の増加

2015年4月からの公的年金の伸びは0.9%だ。内訳はこうだ。

 

消費者物価上昇率・・・・・・・・・・2.7%

賃金上昇率・・・・・・・・・・・・・2.3%

マクロスライド調整率マイナス・・・・0.9%

特例水準の解消マイナス・・・・・・・0.5%

 

物価の伸び2.7%が賃金の伸び2.3%よりも大きいので、新規裁定者も既裁定者も賃金の伸び2.3%が適用される。さらに、マクロスライドの調整で0.9%引かれるので、実際の年金の伸びは1.4%となる。

 

2000年度から2013年度に、物価が下がったにもかかわらず、年金の物価スライドを適用しなかったために、その分を取り戻そうと、平成25年度から3年間、年金給付を引き下げることになった。2015年度は最終年で、0.5%引き下げられることになっている。その結果、1.4%から0.5%引いて、2015年度の年金は最終的に0.9%の増加ということになる。

高齢者を支えきれなくなる「原則賦課方式」の年金制度

2004年の改革は、年金問題の先送りには成功したが、抜本的改革といえない。そもそも、「少子高齢化」のもと、原則賦課方式の年金制度は、相対的に少なくなるだろう現役世代が、増えるだろう高齢者世代を支えるという奇妙な姿になる。これは年金制度の「歪ゆがみ」だ。

 

2004年の年金改革は、この「歪み」に真正面から向かい合っていない。その意味では、小手先の改革でしかなく、「歪み」は、依然として持ち越されたままなのである。

 

実際、「100年安心」プランだったはずの年金制度は、早くもほころびを見せ始めており、今後も制度がどのように変わるかわからない。政府がいくら制度改革を行ったところで、「少子高齢化」と「賦課方式」の問題に真正面から向き合おうとしないのだから、いずれ行き詰まるのは当然だ。

 

政府がやるべきは、少子高齢化の進展を食い止める抜本的な改革を打ち出すか、そうでなければ賦課方式を改めるかだ。真の改革は、このどちらかでしかない。

保険料は取れるところから取れさえすればいいのか?

現在、政府が検討している、あるいは実施している年金制度の改革・変更を紹介しよう。

 

①年金支給開始年齢の引き上げ

 

政府は、年金支給開始年齢を65歳から68〜70歳までに引き上げようとしている。政府の「社会保障制度改革国民会議」(会長:清家篤慶応義塾大学教授)は、公的年金支給開始を、68歳までに引き上げることを検討した。今回は見合わせることとなったが、いずれまた、年金支給開始年齢の引き上げが取り上げられるだろう。

 

②「物価スライド」の特例措置廃止

 

「物価スライド」は、「マクロ経済スライド」と同じく、2004年の年金制度改正のときに導入された制度である。簡単に言えば、インフレ期は生活が苦しくなるので、年金給付額も引き上げようということだ。そう聞くと、年金受給者にとって結構なことに感じるが、実際は両刃の剣である。物価が下がるデフレ期には、逆に年金が減らされるからだ。

 

政府は、2000年から2002年のデフレ期に、「物価スライド」を適用せず、公的年金の給付を据え置いた。政府は、年金受給者に配慮しての特例措置だと言う。インフレになったときに、年金給付を引き上げないことで相殺しようとの考えだ。

 

ところが、その後もインフレになるどころか、デフレがいっそう厳しくなった。そこで、政府は特例措置を廃止した。平成24年の年金制度改正で、今までデフレ期に年金額を下げなかった分を取り戻そうというわけなのである。

 

政府は2013年10月より向こう3年間、年金給付を下げる(年0.8%、3年間で2.5%の下げ)ことを決めた。しかしその一方で、消費税は2014年4月から8%となり、さらには10%へ引き上げられる予定だ。政府は、年金受給者の消費税の負担増には目をつむったままなのである。

 

多くの年金受給者が懐具合を不安に思うこの時期に、特例措置を取りやめ、年金給付を引き下げてしまっては、彼らの生活を追い詰めるばかりだ。

 

③65歳以上の給与所得者に対する基礎年金を半減

 

現在、65歳以上であっても給与所得のある人は、「厚生年金」が減額ないし停止されているが、「基礎年金」は給付されている。この給与所得者の「基礎年金」も減額しようというわけだ。

 

基礎年金の国庫負担は1/2。基礎年金の支払いの半分は税金だ。もう半分は国民の給与から天引き、あるいは自営業者の場合は自ら国庫に納めている。これに対応し、給与所得者、とくに高額所得者への基礎年金を半分に減額する案を検討中なのである。

 

ここでの高額所得者とはどの程度の所得を指すかといえば、年間所得が950万円以上の人々である。年間所得が950万円以上ある人は、基礎年金の半額しかもらえないことになる。

 

確かに金持ちの高齢者は、基礎年金を減らされても生活には困らないだろう。また、国民も金持ちの年金給付を減額しても、文句は言わないだろう。しかし、これは「国民皆年金」という原理・原則に関わる大問題だ。

 

「国民皆年金」だから、保険料を国民等しく負担するのに、もらう段になれば「差別」が発生する。これでは単なるご都合主義であり、「国民皆年金」という原理原則が成立しない。制度の運用に不公平が存在しては、制度自体が成り立たないではないか。

 

老後になっても年金がもらえないのなら、金持ちは年金保険料を支払わないだろう。

 

基礎年金の国の負担増の一部を、金持ちに肩代わりしてもらおうと思うなら、彼らの基礎年金を減額するのではなく、彼らの所得税を引き上げるべきだ。それが本筋だ。そうでなければ筋が通らない。

 

基礎年金を減額するという方法は、原理原則から逸脱し、あまりにも姑こ息そくであろう。

 

これらを見て思うのは、政府が考えている施策は、年金給付を減らすための、付け焼刃的なものばかりだということだ。保険料は取れるところから取り、年金支払いは減らせるところから減らすという考えだ。そこには何の理念も見ることはできない。

本連載は、2015年7月21日刊行の書籍『ジェネレーションフリーの社会』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ジェネレーションフリーの社会

ジェネレーションフリーの社会

北岡 孝義

CCCメディアハウス

もう年金には頼れない。では、どうやって暮らしていくか──。現行の年金制度が危機に瀕している日本が目指すべき道は、定年という障壁をなくし、あらたな日本型雇用を創出することだ。さらには、個々人の働くことへの意識改革…

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