わずか18平米「かなわんよ。」狭すぎる家に集う高齢者…理由を知った医師が驚いたワケ

医療法人社団鈴木内科医院の理事長・院長である鈴木岳氏は、スウェーデンへ渡って「終の住処」づくりのノウハウを学んだのち、「サービス付き高齢者向け住宅」を創設しました。本記事ではその経緯を追っていきます。

医師が造った、「終の住処」にしたいと思えるサ高住

■「家」とは何でしょう?

 

そもそも「我が家」とは何なんだろう?  「我が家」から家族が抜けていくに連れ、「やること」や「見るもの」、そして人との社会交流などの環境が変わっていきます。また、自分ができないことが増えていくに連れ、あるいは、自分が認知症を患ってしまった場合、元気だった頃の住環境にいるとはいえ、それが現在の自分に適した環境とは思えない状況が生まれます。

 

そのような時に住み替えの意味が生まれるのだと思います。住み替えられる方が、住みやすい「家」、「終の住処」にしたいと思える家作りをしたいと考えました。

 

■環境が大きく変わるとは

 

環境が大きく変わることを、外山先生は著書『自宅でない在宅』の中で「5つの落差」と呼び、その落差がお年寄りの生命力をしぼませてしまう、と述べています。

 

『1) 「空間」の落差:あまりにも自宅と違う大きな空間、生活の場と言いながら、まるで大病院のような、まっすぐの長い廊下、その廊下に沿って並んだ多床室。そのような空間に、ある日突然連れてこられた認知症の方が、混乱しないはずはない。

2) 「時間の落差」:職員が働きやすいように決められた日課に、ご自分の日課を合わせなければならない。

3) 「規則」の落差:生活の場なのに規則だらけで自由を奪われる。

4) 「言葉」の落差:年長者として遇する言葉遣いなどをしてくれない。

5) 最大の落差:「役割」の喪失:スタッフに全てを委ねてしまい、何の役割もない。』(1)

 

このような落差を念頭に入れて、環境変化の衝撃を和らげるにはどうしたらいいのでしょうか。

 

■「空間」の落差に対する工夫

 

サービス付き高齢者住宅に建物に愛着が持てるよう、あるいは、どこか昔の記憶を呼び覚ませるよう、形にこだわりました。これは思った以上に好評でした。

 

サービス付き高齢者住宅は建築基準があり、バリアフリーであること、自室にトイレ洗面があることは必須条件です。これは体の自由が効かなくなったご高齢者には便利だと思います。

 

例えば、歳を取ると膀胱の機能が低下し、あるいは不眠になり、夜中に頻回にトイレに起きることが増えます。この時、自宅での転倒による大事故が起きやすいのです。自宅での小さな段差や、つかまれる所の不備だったり、廊下の狭さだったりが、トイレまでの道を遠くします。その点、自室にトイレがあれば、すぐにたどり着けます。

「部屋、広すぎませんか?」に反論したものの…

部屋の広さはどのくらいが適切なのかは、業者と事務長の意見と私の意見は大きく割れました。

 

日本のサ高住の最低の部屋の広さ基準は最低床面積が25㎡、共用部分が充実しておれば18㎡とスウェーデンでの住宅基準35㎡と比べて、大変に狭いものでした。施設ではない、住宅としての高齢者住宅という概念で決められたスウェーデンの35㎡を実現して当然と考えていた私は、業者の「それでは全然、ペイしません。その広さは自立型のご夫婦を対象とするならばアリかもしれませんが、自立が困難となった方、医療ニーズの高い方には広すぎると思います」に納得ができませんでした。

 

それは日本流の商業効率重視で、終の住処を考えるという大目標を阻むものに思えたのです。しかし、事務長も業者さんの意見に同意します。確かに論語と算盤とは言われるように、理想ばかり語って、採算が取れないのも困ります。しかし、莫大な投資をしてまでやろうという事業で安易な妥協は許せません。結局、年寄り世代の母の意見により、私の考えは妥協を迫られました。

 

「お前、35㎡なんて、年寄りには広くてかなわんよ。体が動かなくなってきたら、あちこち、つかまりながら歩くもんだ。掃除だって、自分でできなくなるんだよ」

 

そんなものでしょうか? 確かに、スウェーデンで見た一室は広くて、その中に入居者さんのご自宅から持ち込まれたシャンデリアや家財一式があり、健常者目線からは憧れの一室に見えました。

 

ただ、違和感を感じた部分もありました。それは肝心の入居者のおばあちゃんが、もはや認知症や種々の疾患を患い、自分でほとんど動けなくなっていたことでした。そうするとその空間はあまりにだだっ広く、誰のための空間か?と違和感を感じたのです。

 

それにしたって18㎡なんて、病院の特室のような狭さです。これが住居と言えるのだろうか?と甚だ不満だった私の意見に妥協し、作られたのが25〜26㎡の部屋14室でした。残りは18〜20㎡の21室になりました。こんな狭いところに入居してくれるものだろうか?と甚だ不安でした。

 

しかし、蓋を開けてみれば、ユーザー目線の母のいう通りでした。部屋の狭さが集客に大きな支障になるということはなかったのです。それどころか、25〜26㎡の部屋にご夫婦でのご入居をご希望される方が多々いたのは驚きでした。

 

狭いと思うのですがねぇ。しばしば事業継承にあたり、母の意見を参考にし、失敗したことはなかったのですが、ここでも助けられました。机上の空論と実際の経験論とのバランスを取るのが大事だとつくづく教訓になりました。

入居間もなく「ゴミ屋敷」に…「机上の空論」を痛感

結局、サ高住の共用部分を勘案しない、最低床面積25㎡の部屋は、値段よりも広さを求める独居の方と夫婦で入居をご希望される方に訴求する部屋として住まわれてきました。私の35㎡でなくてはならない、というスウェーデン流は札幌で終の住処を目指す住宅事業においては机上の空論、無駄に広い部屋という結果になってしまったようです。

 

それは訪問診療で他社の大きなお部屋のご夫婦をうかがった際にも実感させられました。ご入居間もないというのにゴミ屋敷と化していたのを見た時、広すぎるというのも罪なものだと感じました。

 

初めは自立型で現役当時と同じ感覚で広いお部屋を選びます。しかし、間も無く、認知症や身体疾患を患い、動けなくなってしまうと、訪問介護、看護なしでは部屋の恒常性が保てなくなってしまいます。サービスを追加すれば新たに費用がかさみます。自立型サ高住への入居に際しては、この落とし穴が、案外見逃されているように思います。

 

このような経緯で決まった居室の広さですが、開業後の経験や多方面での見学を踏まえても、終の住処としては狭すぎないものなのだと感じています。広すぎて、手すりやつかまり棒だらけの殺風景な部屋よりも、慣れ親しんだ食卓一つと棚を置き、それでつかまり歩きできる範囲の広さが、終の部屋には適正なのでしょう。

 

老いるにつれ、いつの間にか現在の自分に、広くなってしまった自宅の空間が環境障壁になってしまうこともあるのです。住み替えはそれを和らげる効果もあるのかもしれませんね。

 

引用文献
(1)外山義:自宅でない在宅.医学書院 17-38: 2003

 

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鈴木 岳

医療法人社団鈴木内科医院 理事長、院長

1966年1月1日生まれ。医療法人社団鈴木内科医院理事長、院長。医学博士。
1991年より市立稚内病院を皮切りに16年の勤務医時代を経て2007年から4年半、実業とカーリングの研鑽を兼ねてスウェーデン、カロリンスカ大学消化器内科に留学、のちに就職。帰国後はスウェーデンで学んだ経験を活かし、2019年日本シニアカーリング選手権、男子日本代表。本業ではかかりつけ医として医療と介護を営み、自前の地域包括ケアシステムを構築中。スウェーデンで学んだLove and Careをモットーに、愛のある医療と介護、経営を通した地域の幸せ作りに挑戦中。

HP:「札幌 鈴木内科」

 

 

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著者紹介

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『安らぎのある終の住処づくりをめざして』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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