コロナ禍、「おうち時間」の増加で家具や家電など、インテリアにこだわる人は増加傾向にありますが、「家族全員がくつろげる住まい」作りの真髄はどこにあるのでしょうか。本記事では、ライフスタイルショップ「SEMPRE DESIGN」代表取締役会長である田村昌紀氏が、理想的で豊かなライフスタイルについて紹介していきます。

「本の収納場所がその人の生き方を左右する」の真意

僕は最近、本のしまいかたを変えた。リビングルームの壁に沿って、ストリングのシェルフを並べ、そこには、飾っておいて気持ちのよい本を並べてみた。写真集や大判のデザイン本などを一列に並べると、まるでそれが前からあったように、空間にしっくりと馴染んだ。

 

ここで手を止めてしまうと、本はオブジェのように動かなくなってしまう。本は並べるより手に取って読んで、自分のものにしていくことに醍醐味がある。

 

そこで僕は、暖炉の近くにあるサイドテーブルに、読みたかった本と、読みかけの本を重ねてみた。本の表紙が自然と目に入り、思わず手に取ってしまう。暖炉に火を入れ、食後のお酒を楽しみながら折々にページをめくり、味わうように文字を目で追っていく。気がつけば読書の時間が日々の句読点になっていて、1日の過ごし方にもメリハリがついていく。

 

こんなふうに、本の置き場所や置き方を変えると人の動きが変わるものだ。動きが変わると、過ごし方にも変化が表れる。ひいてはそれが、生き方にもつながっていく。

 

実は本だけに限らず、例えば食器棚などでも、整理することで見えてくることがある。それはとてもささやかな変化で傍目からは分からないかもしれない。しかし当人にだけはじわじわと効いてくる、豊かな変化なのだ。

 

このプロセスは、ひとりで行ったほうがいい。自分の微妙な変化がよく分かる。家族やパートナーの力を借りようものなら、さまざまな意見が入ってきて、本質が見えなくなってしまう。僕と家内は価値観の似たところがあったが、それでさえ微妙なところで意見は異なっていた。

 

整理しないと見えてこないことがある。思い切って手を入れることで、自分の好みや生き方に触れる機会にもなる。

 

手元の本を、本棚にしまうか、テーブルに置くか。そこから、自分がどう生きていきたいかを知る一歩が始まる。

大人も納得できる住まいが、子どもの価値観を育てる

僕が今の家を建てたのは1984年で、子どもたちは小学生だった。

 

これから成長するとともに彼らの感性は豊かに開いていくだろうと考えたからこそ、記憶にしっかりと残るような、そして大きくなってからもいつでも戻れる「実家」を作っておこうと思った。それこそがホームだといえる。

 

そういう思いから、当時40代になったばかりの僕らは設計図を引き始めた。家族を何よりも大事にしていた家内にとって、この家への思い入れは大きかった。子どもたちにとってもそれは心躍る出来事だったようで、「自分の部屋を見せて」と家内にねだってはよく、図面を覗き込んでいたものだ。

 

いつまでも残るような家を作ろうと考えたのは、僕自身の苦い過去に理由がある。戻れる実家がなくなってしまったからだ。

 

僕の両親は、僕が結婚してから実家を建て替えた。新しい実家は老後を過ごすにはよい家だったかもしれないけど、僕にはなんの思い出もなかった。そのため新しい家に愛着をもつことができなかった。帰郷するたびに感じる居心地の悪さを、両親にさとられないようそっと堪えていた。

 

そのことを思うたびに僕は、両親にも自分自身にも申し訳ないような気持ちになる。子どもたちにはそういう思いをさせたくないとずっと思っていた。それで、「小学校にあがるタイミングで建て替えたら、あとはずっと建て替える必要がない家を作ろう」と心に決めていたのだった。

 

僕らが欲しかったのは、老後のための家ではなく、今を大切にする家だ。具体的にいうと、当時子育てしている今こそ、オフの時間を堪能できる家にしようと思った。リビングルームは広くとり、作りつけの暖炉がある。光と風がいつでも部屋のなかに入ってくる。

 

こうして出来上がった今の家に、僕らは、自分で納得できないものはひとつも置いていない。娘はニューヨークに暮らし、今はデザインを生業にしている。彼女に言わせると、「子どもの頃から家にあったものが今の自分に影響を与えている」のだそうだ。

 

娘は18歳でこの家を出て自立したが、外の世界で出合うたくさんのものを見ても、「この家にないものには違和感があった」そうだ。

 

子どもに、デザインについて何かレクチャーしたことはない。しかしこの家にあるものしか知らずに育つことで、納得できるデザインがどういうものなのか、自然に学んだのだろう。僕も、そういった意味では幼い頃から本物に囲まれて育っていた。だからカップひとつ、カトラリーひとつとっても、納得できるデザインを選ぶことができた。そう考えるとやっぱり、子どもの成長期にこそ上質な住まいを用意するべきだと思う。

 

これは僕個人の考えだが、住まいは家族の原点だ。

 

子育てするときこそ、納得した家で子育てをしたほうがいい。そうすれば、そこで身に付いた暮らしが、子どもたちの生涯を支えてくれる。

 

大切なのは、大人たちが納得できるように住まいを選び、ものを選ぶことだ。すると子どもは大人が教えなくても、ものの価値観を身につけていく。

 

 

田村 昌紀

SEMPRE DESIGN 代表取締役会長

 

 

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    田村 昌紀

    幻冬舎メディアコンサルティング

    25年間、世界中の美しいデザインを追求し、「SEMPRE DESIGN」の田村氏が辿り着いた、長年にわたって愛用できるものに囲まれて過ごす、理想的で豊かなライフスタイルの真髄。

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