投資法人が単独で物件を所有するとは限らない
(9)共有物件に関するリスク
不動産を単独で所有している場合に比べ、共有不動産は、法的に様々な側面で制約を伴います。まず、共有者間で別段の定めをした場合を除き、民法上、共有物の変更にあたる行為には共有者全員の合意を要し、変更にあたらない管理は共有者の持分の過半数で決定するものとされています。したがって、特に投資法人が持分の過半数を有していない場合には、不動産の管理及び運営について投資法人の意向を反映させることができない可能性があります。
また、共有者はその持分の割合に応じて共有物の全体を利用することができるため、他の共有者による権利行使によって、投資法人による不動産の利用が妨げられるおそれもあります。
共有不動産を賃貸する場合、賃料債権は不可分債権であり、敷金返還債務は不可分債務であると一般的には解されています。したがって、他の共有者(賃貸人)の債権者が共有者の持分の割合を超えて賃料債権全部を差し押さえたり、他の共有者がテナントからの敷金返還債務をその持分の割合に応じて履行しない場合に、投資法人が敷金全額を返還せざるをえなくなる可能性があります。
これらの場合、投資法人は、差し押さえられた賃料のうち自己の持分に応じた金額の支払いや返還した敷金のうち他の共有者の持分に応じた金額の償還を他の共有者に請求することができますが、他の共有者の資力の状況によっては、支払いや償還を受けられない可能性があります。共有不動産に課税される固定資産税等の公租公課、共有不動産の修繕費、保険料等にも、他の共有者が債務を履行しない場合、同様の問題が生じます。
所有物件の共有者が知らない間に変わっていることも
また、不動産を共有する場合、他の共有者から共有物の分割請求を受ける可能性があります。分割請求が権利の濫用等として排斥されない場合で、現物による分割が不可能であるときや著しくその価値を損なうおそれのあるときは、投資法人の意向にかかわらず、裁判所により共有物全体の競売を命じられる可能性があります。
共有者間で不分割の合意をすることは可能ですが、合意の有効期間は5年以内とされています。しかも、不動産に関する不分割特約は、その旨の登記をしなければ不動産の共有持分の譲受人等第三者に対抗できないことがあります。また、共有者において、破産手続、会社更生手続、民事再生手続が開始された場合は、特約があっても、管財人等は分割の請求をすることができます。
さらに、共有者は、原則として、自己の共有持分を自由に処分することができます。したがって、投資法人の意向にかかわりなく他の共有者が変更される可能性があります。これに対し、共有者間の協定書等において、共有者が共有持分を処分する場合に他の共有者に先買権もしくは優先交渉権を与えたり、一定の手続きの履践義務等が課されたりする場合があります。
この場合は、投資法人の知らない間に他の共有者が変動するリスクは減少しますが、投資法人がその共有持分を処分する際に制約を受けることになります。また、他の共有者の共有持分に抵当権または根抵当権が設定された場合には、共有物が分割されると、共有されていた不動産全体について、共有者(抵当権設定者)の持分割合に応じてその抵当権の効力が及ぶことになると考えられています。
したがって、投資法人の保有する共有持分には抵当権が設定されていなくても、他の共有者の共有持分に抵当権が設定された場合には、分割後の投資法人の不動産についても、他の共有者の持分割合に応じて、抵当権の効力が及ぶこととなるリスクがあります。