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パウエル議長の議会証言:インフレ対応への姿勢をより鮮明とした内容
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は2021年11月30日に米上院委員会で、翌12月1日には下院で議会証言に臨みました。パウエル議長は自身の見解として資産購入政策による量的金融緩和の縮小(テーパリング)を数ヵ月前倒しさせるのが適切と表明し、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で議論する意向を示しました。
また、パウエル議長は現状のインフレ動向の表現として使用してきた「一時的」を、今後は控える意向を示しました。
どこに注目すべきか:議会証言、テーパリング、一時的、インフレ
今回の2日間の議会証言を通じて、FRBのパウエル議長は、よりタカ派(金融引締めを選好)にシフトした印象です。新たな変異株であるオミクロン株の懸念が漂う中でもインフレ対応を重視する考えを示唆したからです。米国債市場では短期金利は利上げを織り込む一方で、長期金利は景気鈍化懸念などを背景に利回りは低下傾向(図表1参照)となるなど異なる反応が見られます。
まず、パウエル議長の発言のうちタカ派的な内容を簡単に振り返ります。最も明快なのはテーパリングの前倒しと見られます。債券購入額は縮小前(10月迄)は毎月1200億ドルでした。これを毎月150億ドルずつ縮小するとしていたので、22年6月にテーパリングが終了する計算です。パウエル議長はまだ決定ではないとしていますが、12月FOMCで縮小額を拡大しテーパリングを前倒しする考えを示唆しました。市場では来年1月から毎月300億ドルの減額に拡大し、3月にテーパリング終了を大半が見込んでいます。
次にインフレについて一時的という表現が適切でないと説明しています。一時的は期間に関連する表現で、既に一時的というには長すぎ、また今後もインフレが続く懸念があるのであれば、表現を変えるべきとの考えを示しました。
なお、パウエル議長は雇用市場の回復を測定する1つの指標として労働参加率の上昇を重視していましたが注目度合いを下げるようです。労働力の回復を失業率で見ると明確に低下する一方で労働参加率は上昇が鈍くなっています(図表2参照)。労働参加率が実態を示していないことが背景でしょうが、労働参加率の回復を待たずインフレ対応を進めると受けとめれば、タカ派的対応ともいえそうです。
オミクロン株の懸念が高まる中でのこれらのインフレ対応にはタカ派姿勢へのシフトが印象として残ります。
ただ、次の点に注意は必要です。12月1日に地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表されましたが、11月19日までの情報に基づくためタカ派的なトーンです。現段階ではオミクロン株の情報が不十分な中、パウエル議長の議会証言での論調もベージュブックを踏襲する必要があったと見られます。
また、議会証言の質問などからインフレへの懸念が相当高いことがうかがえます。パウエル議長も、まずは対応を示す必要があったのかもしれません。しかし、パウエル議長は過去においてテーパリングと利上げが別物と説明していました。今回の議会証言ではこの重要な点を変更したのかはあいまいです。利上げはテーパリングの後、ということを過去に述べていたことから、テーパリング終了時期の前倒しは、利上げ時期が早まる可能性は高まりました。
ただ、テーパリングとセットなのかは不透明です。パウエル議長は利上げ時期について決断を迫られる局面はあるのでしょうが、オミクロン株により供給問題が悪化し、インフレ率をさらに上昇させるのか、それとも景気悪化で需要が低下しインフレ懸念が後退するのか市場の見方が分かれています。今のところ、今回の議会証言は金融政策の柔軟性確保という位置づけなのではと見ています。
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『パウエル議長の議会証言、セットか、別物か』を参照)。
(2021年12月2日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト
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