任意の明け渡しが難しい場合は「強制執行」を実施
買受人が、買い受けた物件を占有する者から物件の引渡しを受ける方法は、まず占有者と話し合い、任意に明け渡してもらうことです。しかし、任意に明け渡してもらうには、多くの場合明渡料を要求されます。
そこで、話合いがつかなければ法的手続をとらざるを得ません。裁判所に、占有者を被告として家屋明渡訴訟を提起し、判決を得たうえで、強制執行を行います。強制執行手続となれば、占有者がどんなに頑張っても、文字どおり強制的に立ち退かされます。
しかし、判決を得て強制執行を行うには、お金と時間がかかります。まず、家屋明渡訴訟を提起するについては、家屋の固定資産評価額を基準に計算した金額を裁判所に納めなければなりません。弁護士に委任するのであれば弁護士費用もかかります。また、訴えを提起してから、第1回の裁判(口頭弁論)が開かれるまで、通常1ヶ月位はかかってしまいます。事件の内容にもよるのですが、判決を得るまでさらに3~4ヶ月はかかると思わなければなりません。
ところが不動産競売においては、引渡命令という制度があり、この制度によれば、簡易迅速かつ費用も低額に強制執行手続を行うことができるのです。
法的にはOKでも人道上の問題が・・・
家屋の明渡しは、相手のこれまでの生活の場を奪うことですから、いろいろなドラマを生みます。家屋明渡しの強制執行は、執行官が行います。もちろん執行官一人ではできませんから、作業員を連れて現場に赴き、作業員が執行官の指示のもと家財道具をすべて運び出します。鍵も付け替えます。こうした執行官を補助する執行補助者という強制執行のプロもいます。
占有者がヤクザ屋さんのときは、話が早くていい、とよく聞きます。ヤクザ屋さんが物件を占有するのは債権回収や、立退料などが目的で、いずれもお金で解決できるから金額さえ話がつけば解決です。困るのは老人、病人、子供です。移転先のないこういった人を立ち退かせるのは、いくら法的に可能であっても人道上問題だからです。
あるとき郊外の一軒家の明渡しに、執行官と現場に赴いたところ、家屋には債務者の年老いた母(お婆さん)と幼い子供だけがいました。事情が分からずおろおろするお婆さんと、いまにも泣きだしそうな子供を前に、公示書(強制執行の断行日が記載されたもの)を貼付するなど、催告手続を行いました。
そのうえで、このままでは強制執行を行うことになるので、必ず債務者から筆者に連絡するよう伝えて帰りました。結局この事件は、後日姿を隠していた債務者夫婦がお婆さんと子供を引取りに来て建物を明け渡し、強制執行を断行せずに無事解決しました。