物件候補を絞り込むところからスタート
ここから、具体的に不動産の入手事例を挙げて説明していくこととする。
まずは、物件の選択からであるが、インターネットの競売物件情報などから、希望物件の候補を選び出す。一戸建か、マンションか、アパートか、または土地か、不動産の種類を決め、さらに予算によりふるいにかける。
ここで紹介するのは、筆者が係わった実例を参考に作った仮想のケーススタディである。平成26年5月下旬、入札者(仮に「田中さん」としておく)から筆者に対し、競売物件を取得したいとの依頼があった。田中さんの希望はマンション。条件は、3LDK程度の間取りで、価格は2000万円から3000万円。なるべく築年は新しく、西武池袋線または、西武新宿線の物件との内容であった。そこで、インターネットの競売物件情報を丹念に見ていくと、一つの物件の帯情報に目がとまった。
1.交通
西武新宿線「野方」駅 徒歩13分
2.所在地
練馬区豊玉南3丁目
3.売却基準価額
1602万円
4.専有面積
54.90㎡ バルコニー 5㎡
5.間取り
3LDK
6.総戸数
32戸 3階建の1階部分
7.築年
平成20年3月
8.管理費
1万5100円(修繕積立金含む)
9.事件番号
平成25年(ケ)○○○号
10.入札期間
平成26年7月1日から7日まで
開札期日 7月14日
田中さんが、希望にほぼ沿っていると強く興味を示されたので、まずはBITシステムで物件概要と三点セットを見てみる(BITシステムのホームページを参照)。物件概要から三点セットへ進み、物件明細書に目を通す。法人所有ではあるが、占有しているのはその法人の代表者である(当該法人の代表者は、引渡命令申立てにおいて法人と同一視される)。
また、現況調査報告書によると、賃借権を主張する第三者は、現況調査時点では、占有の実体がなかったとのことである。ということは、今現在、この者が住んでいるとしても、差押え後の占有ということになるわけだから、彼の立場は非常に弱いといえる。ここまでの段階で十分入札対象として検討できそうだ。
そこで、占有者の個人名などの確認のため三点セットの実物を裁判所(東京地裁民事執行センター)に確認に行く。下記の図表が、この第三者橋本と称する人間からの回答書である。現況調査の内容から考えると、この回答書は、まったくつじつまがあっていない。おそらく、競売手続の妨害か、または、債権回収目的の賃借のように思われる。しかし、現況調査報告書には、そこまで踏み込んだ見解は書かれていない。したがって、本当の理由は、推測するより他はない。
【図表 借家契約等に関する回答書】
以上の状況であれば、どうやら、買受後は、両者に対し引渡命令の申立てをすれば認められそうだ。次に、部屋の間取図を見る。希望にほぼ沿った3LDKである。ただし、1階部分なので、陽当たりが気になる。写真を見ると、外観はなかなか立派なマンションだったが、室内は雑然としていて、よくわからない。確かに誰かが生活しているのは見てとれる。不動産評価書には、特段の法的制限などのマイナス面の記述はない。早速三点セットの必要部分をコピーし、持ち帰った。
そして、当該マンションの登記簿謄本を法務局で取得したところ、債権者は①都市銀行、②大手ノンバンク、③建設会社、④個人、⑤財務省、⑥東京都、といった内容である。かなり派手に根抵当権、抵当権が設定されているが、すべて所有会社の債務に基づく設定登記のようだ。
現地調査の結果を踏まえて入札を決断
さて、田中さんと面談し、資料を手渡すとともに、その内容の概略を説明した。その要旨は次のとおりである。
①マンション全体は、グレードが良さそうだ。
②明渡しについては、引渡命令もとれそうなので、目途はつくだろう。
③管理費の滞納がある。記録によれば、平成24年12月分からのようで、現時点で28万円程度になりそうだ。
④売却基準価額の設定は、現在の市場価格をインターネットなどで調べたところ、3割安程度になっているようだ。
以上を踏まえ、田中さんは早速、現地の確認をしたいとのことだったため、翌日現地を訪れることとした。
駅から現地まで、12、3分歩くと、そこに対象マンションが見えた。低層マンションで、全面にタイルが貼ってあり、なかなかきれいである。周辺の環境も良い。共用部分の管理も行き届いており、管理事務室には、管理員の方が座っていた。管理員さんに来訪の目的を告げ、当該住戸のことを聞いてみると、事件記録のとおり、所有会社の社長、丸山氏が住んでいるのではないかとのことだった。また、管理費の滞納額などについては、ここでは分からないという回答だった。
対象となっている住戸の郵便受には、所有会社の名称「エス・コーポレーション」および、「橋本真」と連署した紙が貼られていた。玄関ドアの表札部分も同様だった。電気メーターがゆっくりと回転しているところを見ると、確かに誰かは居住しているのだろう。気になっていた陽当りも、バルコニー側へ回ってみると、さほど悪くはなさそうだ。
現地調査を終え、田中さんとの打合せの結果、この物件の入札を行うこととした。入札にあたり、田中さんはあらかじめ、銀行に資金の調達について相談しに行くことにした。融資を受けようとする銀行は、田中さんとかねてから取引があり、物件の資料を持っていくと、すぐに検討してくれることとなった。
その際、田中さんが、融資担当者に対し、①競売不動産への銀行の抵当権設定登記は、裁判所への代金納付手続予定日の5日前まで(土日、祝日などの裁判所閉庁日を除いて計算)に別途所定の届出(民事執行法82条2項)が必要であること、そして、②引渡しを受けるまでには、ある程度時間がかかる旨を十分に説明したことは、いうまでもない。
さて、こうして入札物件は決定したのであるが、次の問題は、いくらで入札したらいいのか、また、その際、全体の予算はどれだけなのか? ということである。そこで、一つは、入札価額の検討、そしてもう一つは、付帯費用の予算立てを行うこととした。これにより、銀行からの融資額も決まってくる。
次回は、買受けの予算をたてる方法について見ていく。