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欧米に遅れる日本経済の回復
政府が2021年内に実質GDPがコロナ前(2019年10~12月期)の水準を上回る見通しを示したこともあり、その達成時期に注目が集まっている。米国の実質GDPは2021年4~6月期にすでにコロナ前の水準を上回り、2021年初め頃までは日本以上に落ち込んでいたユーロ圏も2021年4~6月期(前期比年率8.7%)、7~9月期(同9.3%)と高成長を記録したことでコロナ前の水準まであと0.5%と迫っている。
一方、日本は2021年初から9月末までのほとんどの期間で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されていたことを背景に、2021年に入ってから低迷が続いており、7~9月期は前期比年率▲3.0%のマイナス成長となった。この結果、実質GDPの水準はコロナ前を▲2.2%下回っている(図表1)。
10~12月期は、緊急事態宣言の解除に伴う個人消費の回復を主因として高成長が期待できるが、実質GDPがコロナ前の水準に戻るためには前期比年率9.5%の高成長となることが必要だ。日本経済新聞社が2021年7~9月期のGDP1次速報後に民間エコノミスト10人を対象に実施したアンケート調査によれば、2021年10~12月期の成長率は平均6.5%で、コロナ前の水準を回復するのは2022年入り後との見方がコンセンサスとなっている。
日本のGDPはコロナ前の水準が低い 日本は現在、新型コロナウイルスの感染状況が非常に落ち着いている。この状態が続けば、個人消費を中心に成長率が上振れ、2019年10~12月期に実質GDPがコロナ前の水準を回復する可能性もある。しかし、たとえ実質GDPがコロナ前の水準に戻ったとしても、経済正常化が実現したと考えるのは早計だ。
第一に、2019年10~12月期をコロナ前とすることが一般的だが、日本は消費税率引き上げの影響で前期比年率▲7.6%の大幅マイナス成長となったため、コロナ前の段階ですでに平常時よりも経済活動の水準が落ち込んでいた。実質GDPがコロナ前に戻るだけでは不十分だ。
日本の実質GDPの直近のピークは消費税率引き上げ前の2019年7~9月期で、2021年7~9月期の水準はそれより▲4.1%も低い。実質GDPが2019年7~9月期の水準を上回るまでにはかなりの時間を要するだろう。
第二に、実質GDPが約2年間かけてコロナ前の水準に戻ったとしても、裏を返せば、経済がその間に全く成長しなかったということになる。今回のような負のショックがなければ、GDPは時間の経過とともに増加することが普通である。日本の潜在成長率を0.5%とすれば、2021年10~12月期の実質GDPはコロナ前よりも1%程度は増えていたはずだ。実質GDPが元の水準に戻っただけでは正常化とは言えない。
下方屈折するトレンド成長率 問題は、コロナ禍から抜け出した後に、日本の成長率が上昇トレンドに戻るかどうかだ。日本の実質GDPの長期推移を確認すると、大きな負のショックがあるたびに、実質GDPの水準が下方シフトするだけでなく、その後のトレンド成長率(一定期間の平均成長率)の下方屈折につながってきたことが分かる(図表2)。
トレンド成長率の低下が特に顕著なのは個人消費で、消費税率が3%から5%に引き上げられた1997年以降にそれまでの2.4%から1.3%へと低下した後、リーマン・ショックが発生した2008年以降が1.0%、消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年以降が0.4%と下方屈折を繰り返している(図表3)。
個人消費のトレンドがGDP以上に大きく低下しているのは、賃金が伸び悩む中で、消費増税、社会保険料率引き上げ、年金支給額の抑制など、家計の負担増や可処分所得の減少につながる政策が多く実施されてきたことが背景にあると考えられる。
実質GDPがコロナ前の水準に戻ることは、あくまでも正常化の入口にすぎない。実質GDPが直近のピークである2019年7~9月期を上回った上で、個人消費を中心にトレンド成長率が少なくともコロナ前の水準まで回復することが、経済正常化の条件といえるだろう。
斎藤 太郎
ニッセイ基礎研究所
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