于濱氏

中国の大学病院で中医師(中国医学/東洋医学の医師)として、毎日約100人以上の患者を診察し、臨床の経験を積んだ女性が、数年前に来日した。大阪で「東洋一心堂」鍼灸院と、「東洋一心堂」漢方薬局を営む于濱氏だ。彼女はそこで、鍼灸師として施術を行うほか、漢方薬局では中医学に基づき、提携クリニック医師や在籍薬剤師処方のオリジナル漢方薬を提供している。そんな于濱氏は、現在新たに日本の医師免許取得に向けて勉強中だという。中国の中医師免許(医師免許)、日本の鍼灸師資格を有していながら、さらに新たな挑戦に乗り出した于濱氏に話を聞いた。

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    中医師が、新たに日本での医師免許を取得する理由

    ーー鍼灸院の経営は順調に見えますが、なぜ新たに日本の医師免許を取ろうとするのですか?

     

    「中国の医師免許と日本の鍼灸師資格だけしか持たない現状ではできない診察や治療があるからです」

     

    ーー具体的にはどのようなことが制限されるのですか?

     

    「例えば不妊の治療をしにいらっしゃる患者様には、鍼灸、漢方などを施し、排卵チェック、血液検査、エコーなどで経過を観察しながら診察・治療したいのですが、現在私は日本の医師免許を持たないため、患者様に婦人科まで足を運んでもらい、それそれの検査を頼んでいます」

     

    ーー漢方薬局で出す薬も制限されるのですか?

     

    「漢方も、日本の医師の処方箋があれば、完全オーダーメイドでお出しすることができます。ですがほとんどこれは実費診療となります。不妊の患者様は長くて半年から一年通院されることもあるので、経済的に負担をかけてしまうので、少し心苦しいところではあるのですが……」

    西洋医学と中医学を掛け合わせた診察

    ーー血液検査、エコーと言えば西洋医学的なイメージがありますが、中国では中医師もするのですか?

     

    「します。私は中医学が全てだとは思っていません。不妊の患者様には、検査はもちろん希望するならタイミング、人工授精も体外受精も、すべてやってほしいと思っています。西洋医学と中医学、両者の良いところを掛け合わせる中国の総合病院のような診察を自分の院内でやりたいのです」

     

    ーー中国の総合病院ではそのような診察が一般的なのですか?

     

    「はい。中国の総合病院では一般的に、中医学、西洋医学両方の医師が在籍しています。例えば、癌の患者様がいればオペをし、放射線治療を行いながら、並行して漢方の処方、鍼灸の治療を始めます。放射線治療の副作用を抑える自己免疫力を高めるためです。西洋医学のみ、中医学のみを選択するのではなく、どちらも併用しベストな治療をできればよいというのが私の考えです。日本でも中医学が選択肢になればよいと思います」

    鍼灸院を続けながら挑む医大編入試験

    ーー鍼灸院は続けながら、受験勉強もするのですか?

     

    「時間のやりくりは大変ですが、とりあえず3年間頑張ってみようと決めました」

     

    ーー仕事以外に、家庭での子育てがありますよね? 他の受験生と勉強時間に差ができるのでは?

     

    「勉強時間の差は大きいかもしれませんが、抱えている患者様や十数人のスタッフがいるので無責任に休むことはできません。睡眠時間を削っても、勉強時間は1週間に14時間程度が限界ですが、家庭教師にきてもらったり予備校に通ったりして編入試験合格のため最短の道をたどっています」 

     

    ーーめぼしい大学は決まっていますか?

     

    「他の受験生に比べると年齢も高いので編入試験を考えていますが、仕事をしながら、子育てをしながらとなると大阪から通える大学のみに絞られます。関西には編入試験のある大学は少なく、大阪大学、神戸大学、滋賀医科大学しかありません。この中でめぼしい大学は一校でしょうか。面接試験もありますが、中医学のことを話してよいものかも迷うところです」

    中医学につきまとう誤った認識

    ーー中医学の医師だということが不利になりますか?

     

    「そんなことはないと思いますが、中医学を極端に嫌うドクターもいることは事実なので、面接官がもし中医学に否定的な感情を持っていたら……など不安要素はつきません。しかし、嘘はつきたくないと思っています」

     

    ーー日本で中医学は正しく認識されていないと思いますか。

     

    「過去の話ですが、ステロイド等の治療で改善が見られず諦めていた顔面神経麻痺症状の患者さまが私の鍼灸院を見つけていらしてくださいました。でも、私の鍼灸院にいらしたときにはすでに最初のステロイド治療から20年経っていました。 

     

    施術を重ね、顔の表情もある程度は戻り、「お孫さんと写真を撮るのにも支障がない」と、本人は大満足していらっしゃいますが、中医学という選択肢が一般的で、もっと早くいらしていただけていたら、20年間も辛い思いをさせることはなかったのに……と思わずにはいられません。手遅れになる前に、初期の段階から西洋医学、中医学を併用することや選択することが当たり前になれば、辛い症状や悩みを抱える患者さまを減らせるはずです。

     

    時間を作って最短の道を探りながら医師免許を取得したのち、悩む患者さまを一人でも多く救いたいというのが私の夢です。年齢や時間の問題もあり夢物語かもしれませんが、何歳になっても諦めず挑戦は続けていこうと思います」

     

    より良い治療のため日本の医師免許取得に向け挑戦を続ける于濱氏。最近では新型コロナウウィルスの影響で未病を防ぐという意識が高まり、漢方への関心の高まりを感じていると言う。これをきっかけに情報が正しく広まり、より多くの患者が救われるのを願うとともに、彼女が医大受験に成功し、中医師として制限ない診察ができるよう願うばかりである。

     

     

     

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