不動産を活用した対策では「建物割合」に注目
日本では、相続税や贈与税の申告で用いる財産の評価方法は「財産評価基本通達」で定められています。例えば不動産の場合、土地については路線価、建物については固定資産税評価額という、一般的に考えられる取引価格よりも低い価格で評価を行うこととされています。
こうした取引価格(時価)と評価額の差を利用することによって、税額を軽減することができます。これが、「評価額引き下げ」対策の基本的な考え方です。例えば2億円の現金を保有して相続を迎えると、評価額は2億円のままです。
ところが、2億円の現金で1億円の土地と1億円の建物を購入し、「現金を不動産に替えて」相続を迎えると、土地は約8割、建物は約半分などとなり、合わせて1億3000万円の評価に下がるといった具合です。ポイントは、時価と評価額の乖離が大きい資産ほど税金の減少額が大きくなることです。
不動産の場合、土地よりも建物の方が評価減割合が大きくなるため、「建物割合が大きい」不動産の方が節税効果が高まります。また、購入した土地建物を他人に貸して「貸家建付地」とすれば、自用地より評価を下げることができます。
建物割合が大きく、かつ貸家建付地となる不動産の代表例は、東京都心部の高層マンションですが、一等地であれば「評価減割合」が7割という物件も珍しくありません。不動産という一般的な資産でこれほど時価と税務上の価格差があるのは、日本特有の租税制度といえるでしょう。
自社株評価を「ゼロ円」にするカラクリとは!?
ところで、不動産を「法人で所有する」ことによって評価額を引き下げることができます。例えば財産管理を主な目的とした資産管理会社を設立して、個人でなく法人で不動産を取得する方法ですが、これにより相続評価は不動産としてではなく自社株の評価に変わります。自社株評価となれば、後述する自社株評価引き下げ対策を駆使することによって、さらに評価を引き下げることができます。
注意点は、法人が取得した土地や建物の価格は、3年間は「通常の取引価額(時価)」で評価されることです。取得後3年を経過して初めて、相続税評価額で評価できるようになります。このため、法人設立による引き下げ対策は、少なくとも3年間はほぼ確実に相続発生のおそれがない、できれば60代くらいまでの健康な年齢で開始する必要があります。
さらに不動産取得の原資の一部を「借入で調達する」と、借入割合に応じて評価を引き下げることができます。なぜなら、取得後3年が経過すると資産の評価は大きく圧縮されるのに対して、債務はマイナスの財産として時価のまま評価されるからです。この3年経過時点で法人の純資産が債務超過となることも多く、そうすると自社株評価はゼロ円になるという仕組みです。
ゼロ円で自社株を贈与できるのであれば、年間110万円の基礎控除などは気にせず、一気に次世代に自社株を移転することができます。こうした仕組みを利用して、不動産会社や金融機関などが、遊休地を保有している地主や農家などに「借金してアパート」を勧めることがあります。
収益不動産の購入でなく、自用地を活用してアパートを建てる対策の落とし穴は、将来の空室リスクが大きいことです。残念ながら、アパートに適した立地はそう多くはありません。それと、不動産会社の家賃保証が実質的にあまり必要のない最初の10年程度で終わる契約となっていることです。
空室が埋まらない貸家と借金を抱えて、売るに売れない状態となるくらいなら、更地で売却し高収益物件に組み替えておく方が得策です。
[図表]
まとめると、評価額引き下げ対策の基本パターンは、①現金を収益不動産に組み替える、②法人で自社株評価に切り替える、さらに③借入れで引き下げ効果を高める、の3段階となります。どこまでリスクを許容できるかによって採用する対策が異なってきます。
このような対策の注意点は、行きすぎると税務当局から否認されるリスクがあることです。過去の事例で、意思能力のなかった被相続人(故人)が相続直前に高層マンションを購入し、相続後まもなく相続人が物件を売却したケースがありましたが、租税回避目的があったとして国税に否認されました。
不動産を活用した税金対策では、事業としての「投資目的」と「租税回避目的」の線引きを明確にしておくことが重要です。