(※写真はイメージです/PIXTA)

愛知県豊橋市の産婦人科・小児科医院の男性院長が飲酒後に出産手術をしていた事件が報道されると、賛否両論の意見が噴出した。生まれた乳児は心肺機能が低下して別の病院に入院したという。出産に立ち会った父親は、県警への刑事告発や民事訴訟も検討しているという。今回の「酒酔い手術」は罪に問えるのか検証をした。なお、個別事案への明確な発言は、現時点で法律家の立場からは本来、慎むべきだが報道されたデータという限られた素材をもとに現状、法的にどう解釈されるか一般論として分析を試みた。

「個別事案なのでその質問に答えられない」

以下、厚労省医政局免許室とのやりとり

 

小林「「医事課から電話を回されました。いくつかお尋ねします。これまで不祥事で医師が実際に免許取り消しになったケースはどのぐらいあるのか」

 

厚労省医政局免許室「取り消しになった事例はいくつかある。医師と歯科医師あわせての数だが、年に数件という年がある」

 

小林「医師に限ってお聞きする。その場合の医師法の流れだが、裁判で有罪になると医師法の4条経由で7条の問題となるのか」

 

厚労省医政局免許室「7条には医師が4条各号のいずれかに該当するときと記載があり、その中には罰金以上の刑に処せられた者と記載があるから、有罪の場合、7条の問題となる。しかし、医道審に諮られ医師免許の取り消し、停止などが審議される場合は必ずしも司法処分の重さだけではかるのではない。医師の行為態様、悪質性などを総合勘案して処分が決められる」

 

小林「医師の行為が明確に刑事上の問題となる場合は、道筋が明らかなので議論すべき話はない。今回のケースも実際に侵害結果などが生じていれば、警察も動いたかもしれない。だが今回は乳児の容体は報道によれば、どうも回復しているようだ。そこで、私が聞きたいのは、例えば今回の事案のように手術が予定されているのに飲酒しているような行為そのものがどうかということだ。このケースで、医師法7条に照らし、当該医師は品位を欠いていると、お考えなのかということだ」

 

厚労省医政局免許室「なるほど、という質問だが、個別事案なので私はその質問に答えることはできない」

 

小林「一般論としても答えられないか。こういう問題に関して厚労省内では議論がないのか」

 

厚労省医政局免許室「免許室内では個別事案に関しての議論はない、しかし、刑事事件とならない医療過誤事案に関して、これはどうしたらよいか、どう扱うべきかの議論はある。今後の課題として検討していきたい」

 

公務員の立場として話せることと話せないことがあるのであろう。核心に迫ると、議論が尻すぼみに途切れてしまう。ただ厚労省の役人と話していて感じたのは、飲酒行為で、医師法などに新たな条文を設けて医師の行為を規制することに積極的な姿勢は感じられなかったということである。

 

それは医療という「部分社会」の尊重から来るものなのか、具体的な過失が発生していれば、そこで刑法211条が発動するから受け皿があるとお考えなのか、私にはわからない。ただ行政側にはそのような姿勢が感じ取れた。私も思うところだが、それは医師という職業の重み、歴史から来るものなのかもしれない。

 

もしそうであるならば、外からの介入から解き放たれている分、医療の世界の内部で、自浄作用が働かなくてはならないであろう。苛酷な職務ということに対し尊敬の念と理解は示したい。だが、その上で医師として社会的責任を果たしていくこと、まさに「noblessℯ oblige」(気高さは義務を要求する)の実践が、求められているのではないか。取材を通じ、そのように感じた。

 

 

小林 公夫
作家 医事法学者

 

 

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小林 公夫

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