景気と成長率を考える出発点は「潜在成長率」
成長率が高いから景気拡大中だ、という場合の判断基準は、「潜在成長率」と呼ばれる成長率です。失業率を一定に保つような成長率、といった意味です。潜在成長率よりも高ければ失業が減っていくので景気が拡大中、低ければ失業が増えていくので景気は後退中、と考えていいでしょう。
日本では経済成長率が1%弱といったところでしょうが、途上国では数%のところが多いようです。その違いの主因は、技術進歩速度の違いです。
手で畑を耕している農家にトラクターが来たら、手で洋服を縫っている企業にミシンが来たら、労働者1人当たりの生産量は爆発的に増えるでしょうから、成長率が相当高くないと失業者が増えてしまいます。したがって、途上国の潜在成長率は高いのです。
しかし、日本ではすべての農家がトラクターを、すべての工場がミシンを持っているので、それを最新式のものに買い替えたからといって、労働者1人当たりの生産量が激増するわけではありません。従って、日本の潜在成長率は途上国よりもはるかに低い、というわけです。
「潜在成長率」が時間とともに低下するワケ
途上国から先進国になっていくと、上記のように機械が普及するので潜在成長率が低下するわけですが、潜在成長率が低下する要因はほかにも多数あります。
経済が成長すると、第二次産業から第三次産業にウエイトがシフトします。物作りからサービス業にシフトする、というわけですね。その理由は、需要が財からサービスにシフトするからです。洋服をほしがっていた女性が、ある程度洋服を手に入れると美容院に行きたくなる、といったことが起きるわけです。
洋服の需要が中心の経済では、ミシンの普及に伴って労働者1人当たりの生産量が増えるので潜在成長率は高いのですが、美容院が中心の経済では労働者1人当たりの生産量が増えないので、潜在成長率が低いのです。
日本の場合、少子高齢化も潜在成長率の低下の一因となっています。現役世代の人口が減るので、1人当たり生産量が増えないとGDPはマイナス成長になってしまうからです。
もうひとつ、消費者が若者中心だと自動車等の財の需要が多いのですが、消費者が高齢者中心になってくると医療とか介護といった労働集約的な消費のウエイトが高くなるので、労働者1人当たりの生産量が増えにくくなるのです。
今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。
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塚崎 公義
経済評論家
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